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Tuesday, November 08, 2011

映画『ハラがコレなんで』

【11月8日特記】 映画『ハラがコレなんで』を観てきた。

しかし、それにしても何で石井という姓の映画監督はこんなにたくさんいるんだろ? 隆、聰互(岳龍)、輝男、克人、裕也──僕が映画館で観たことがあるだけでも5人いる。

で、石井裕也って誰だっけ?と分からなくなって調べたら、ああ、『川の底からこんにちは』の監督(この映画がきっかけで満島ひかりと結婚した)か。だから、観たい映画リストに入れてたのか、と納得。

しかし、こないだ『あぜ道のダンディ』観たばかりなのに。──2年で3本。多作の部類に入る監督である。

で、この映画は、『あぜ道のダンディ』よりも『川の底からこんにちは』の線、いや、もっともっと極端を行っている。

タクシー料金を払わなかったシーンで漸く、「あ、この映画はそういうシュールな線で行くのか」と了解がついたが、観る側の僕がペースを掴めるまでにちょっと時間を費やした。

これは「そうすることが粋かどうか」ということをほぼ唯一の指針として、全てのことをどうするか決めている妊婦の話である。なぜ妊娠してなぜ独り暮らしなのかという設定もこれまたぶっ飛んでいる。

行動パタンももうはちゃめちゃで、昔のホームドラマに出てくる「お節介でお人好しの下町のおばちゃん」という枠には決して収まらない造形である。んでまた、その主役の臨月近い妊婦役を、全く妊娠の経験がない(多分)仲里依紗に割り振ったところがまたすごい割りきりである。

しかし、なんでまた妊婦なのだ? お話を作る上で妊婦にする必要性はどこにもない。でも、結局のところ妊婦だからおかしい。妊婦だからこそ無茶が異常な無茶になっておかしいのである。

ただし、コメディとは言え、ここまでやり過ぎの設定、行き過ぎの進行で押して来られると、観る人によってはあまりにリアリティから逸脱し過ぎて嫌になってしまうかもしれない。それも、主人公だけではなく登場人物が一人残らすぶっ飛んだトンデモ・ワールドなんだから(笑)

ただ、相当デフォルメしてあるとは言え、いや、デフォルメしてあるからなおさら、現代に失われた「粋」と「人情」を掬い上げるというテーマは極めて明快であるし、後半の畳み掛けはさすがに巧みで随分笑わせてもらった。

もともと画作りに凝るよりも脚本にうま味を見せる監督で、言葉選びと間(ま)で笑わせてくれる。この映画で仲里依紗が連発する「OK」という台詞などはその典型である。

そして、その台詞回しに加えて、今回気づいたのは音楽の使い方がとても上手い監督であるということである。いろんなシーンに、ありきたりでない、独特のBGMが入るのだが、この選曲も、それから入ってくるタイミングも正に絶妙である。『川の底からこんにちは』の社歌のようにドラマの中には組み込んでいないものの、あれよりも遥かに効果的で印象的な音楽の使い方だと思った。

それから、もうひとつ思ったのは、この映画はまさに伸び盛りの仲里依紗をフィーチャーしたものであるように見えて、実はもうひとり、稲川実代子を前面に押し出した作品なのではないかということ。『川の底からこんにちは』でも強烈な工員のおばちゃんを演じていたが、この映画ではさらに強烈な大家のおばちゃんを演じている。系統としては力の入りすぎた演技なのだが、ま、それでも観てたら笑ってしまう。

この作品は多分、後年石井裕也監督を振り返った時に、決して代表作として挙げられる作品ではないのだろうとは思う。その代わり、「他にはこんな作品も撮ってます」みたいな紹介で、通やマニアを喜ばせる映画になるのではないだろうか?

あんまり難しいことを考えずに観るのが良い映画である。そう、この映画の中で、ものごとがうまく運ばないとすぐに昼寝をする妊婦のように。

うん、なんかいいなあ。やっぱり上手い監督なのだと思う。

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