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Sunday, November 20, 2011

映画『マネーボール』

【11月20日特記】 映画『マネーボール』を観てきた。

2004年の6月に原作である『マネー・ボール』(マイケル・ルイス著)を読み、めちゃくちゃ面白かった記憶がある。だから、このルポルタージュが映画化されると聞いて以来、まだかまだかと楽しみに待っていたのである。

その楽しみが大きかったせいだろうか、少し期待はずれの感があった。映画はドラマにしようとし過ぎているのである。

いや、ハリウッドが映画にするのであれば、当然ドキュメンタリっぽいものではなく、ドラマにしようとするだろう。それは解らないではない。

だが、あの本の第一義的な面白さはシリアスなドラマの面白さではなかった。あれはまるで野球漫画を読んでいるような面白さだった。

例えて言えば、『ドカベン』で山田太郎をライバル視する岩鬼が、山田の後を追って野球部に転部したものの、野球のセンスはからっきしないか、と思われたところで、「悪球打ち」の才能が見出されて大活躍し始める、みたいな、そういうエピソードが次から次へと出てくるのである。

あの本の面白さはまずそういう面白さだった。そして、マネーボール理論という名のもとで、野球というスポーツとデータ分析が本当に興味深く絡んでくる。プロ野球のファンであり、かつ統計やデータが大好きという僕にとっては、これはもうどこにもないエンタテインメントであった。

ところが、この映画では一番比重をおいて描かれるのは、主人公であるアスレチックスのオーナー、ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)の苦悩なのである。そりゃ、苦悩はあるだろう。それは解る。でも、そこじゃないんだよなあ、という気が、観ていてするのである。

原作本ではビリー・ビーンはもっともっと、途方もなくエキセントリックな人物である。それは怒ると椅子を投げつけるなどという表面に現れる仕草を言っているのではない。あの時代にあのようなデータ・マイニングの手法を伝統あるアメリカ野球に持ち込もうとしたこと自体が、彼が如何にエキセントリックな人物であるかの証なのである。

ところが、映画ではそのデータ手法が存分に描かれていない。マネーボール理論の成功例を、ひとつひとつ順を追って説明してくれたりしないのである。

代わりにビリーの娘が登場して、彼の父親としてのノーマルな愛情が描かれたりしている。それはハリウッドの常道なのだろうけれど、主人公のエキセントリックさを減じることになる。──あるいは狙ってやったのかもしれないが、僕はあまり賛同する気にならない。

それから、何よりも違和感があったのは、映画ではアスレチックスがプレーオフで敗れるところから始まることである。原作では同球団はプレーオフどころか万年Bクラスのお荷物貧乏チームであるところから始まる。そこでビリーがドラフトで疵のある選手ばかりを集めて育てて、やがてチームも強くなるのである。

育った選手が他球団に金で持って行かれるのはその後の話である。プロデューサーでもあるブラッド・ピットは弱者が立ち上がる話が好きだと言う。それを読んでなるほどなあと思った。だから、この映画でも、ビリーがせっかく育てた選手がFAで他球団に抜かれ、臍を噛むシーンから始めたのだろう。

金持ち球団のフェアでない仕打ちによってせっかく積み上げた努力が無になるという逆境から、このGMが立ち上がるというストーリーにしたかったということではないだろうか。

しかし、現実のビリーは、年俸が高くなってきた選手をいとも簡単にトレードに出し、代わりに多少疵があるが若くて有望で給料の安い選手を集めたのである。僕はこの異端児を、凡人にはやっぱりついて行けない変わり者として描いたほうが映画の説得力があったのではないかと思うのである。

原作の第一義的な面白さはプロ野球とデータ分析の組合せの妙であると書いた。そして、これを読み終わった時に感じるのは、ビリー・ビーンという変人の、燃えたぎる無限の情熱なのである。データ野球の面白さにワクワクしながら最期まで読んだときに、読者は漸くそのことに気づくのである。

この映画でもビリー・ビーンの情熱という点はよく描かれていた。しかし、データで野球を進めるということが如何にトンデモナイことであるのかを描くために充分なスペースを割かず、ビリーのエキセントリックさも減じて描いたために、それは随分マイルドになった情熱であった。

そこが一番「違うな」という気がした映画だった。

ただ、どうだろう? 原作を全く知らない人が観たら、良い映画だったのではないかな。アメリカの野球の美しさもむごさもそれなりに伝わってくる画面であったとは思う。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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