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Wednesday, November 23, 2011

映画『恋の罪』

【11月23日特記】 映画『恋の罪』を観てきた。

園子温監督は味付けの濃い料理人である。しかも、結構油ギトギトの中華料理だったりする。たまに食べる分には良いのだが、あまり頻繁になると、「あれはちょっと脂っこいからなあ…」ということになってくる。

もちろんそんなことは観てみて初めて思ったのであるが、実は観る前から園子温は僕が長年観る気にならなかった監督である。思えばぴあスカラシップ作品の『自転車吐息』のときから気になっていながら、結局どうも観る気にならなかった。何故だか分からない。

で、2006年の正月に『奇妙なサーカス』を初めて観てみて、「やっぱりこれはダメだ」と思った。ところが、2009年の『愛のむきだし』があまりに評判が良いので、気を取り直して観に行ったのである。観に行って良かった──怒涛の4時間に溺れて万感胸に迫るところがあった。

それで今年の2月には『冷たい熱帯魚』を観た。これもものすごかった。ただただ圧倒された。で、そういう流れで今回の『恋の罪』も観に行ったのだが、正直これは少し『奇妙なサーカス』に戻った感があった。

ちょっと“殺人もの”が続きすぎたこともあるだろう。今から思えば、『愛のむきだし』はとりあえず初っ端から殺人はなく、せいぜいスカートの中の盗撮だったから。そういう意味で味付けが少し変わったのが良かったのではないだろうか。

この何本かを並べてみて、僕はこの監督は女性よりも男性の性を描くほうが巧いように思う。今回のように女性の性を前面に持ってくると、生々しいようでありながら、却って少し観念的になってしまう嫌いがあるように思う。

もちろん、田村隆一の詩やカフカの『城』を引き合いに出して、深く重層的な意味づけの構造が面白いのであるが、それは逆に言うと少し観念的になってしまうことでもある。恐らくヨーロッパの映画祭でこの人の作品が受けるのは、その観念性によるのかもしれないと思う。

それから、これはいつも思うのだが、この監督のBGMのセンスは最悪だと思う、と言うか、僕の趣味には徹底的に合わない。いつもクラシックを使うのだが、考えてみればこれもまたヨーロッパで受ける原因なのかもしれない。閑話休題。

簡単に映画の出だしの設定を書いておく。

渋谷のラブホ街で発見された、マネキンと接合された凄惨な女性死体(『冷たい熱帯魚』に続いて、今回も特殊造形は西村造形である)。そこに駆けつける殺人課の女性刑事・吉田(水野美紀)。彼女は仕事と家庭を見事に両立させているが、実はそれに加えてステディな浮気相手がいて、まさに今近隣のラブホで事に及んでいる最中だったのである。

そして、そのエピソードと最初は繋がらない形で始まる2人の女性の話。ひとりは売れっ子作家の貞淑な妻・いずみ(神楽坂恵)。外から見れば満たされているようで、実は心の中は満たされていない。その心の隙から、AV出演、売春へと道を外れて行く。

もうひとりは名門大学の准教授でありながら、夜は渋谷の立ちん坊として自らの体を派手に安売りする美津子(冨樫真)。

なんだかおどろおどろしい設定がおどろおどろしい台詞とともに、おどろおどろしくうねって行く。下手糞な寓話になったりしないようによく練り込んだ話である。ただ、何と言うかな、意味的な重層構造が効いているので、見終わってからはいろいろ考えが膨らんできて面白いのだが、見ている最中は結構退屈するのである。

それには脚本のことも含めていろんな理由があるとは思うのだが、やっぱり神楽坂恵の演技力の限界もあるのではないかなと思う。他の女優さんには絶対出せない味を出せる貴重な役者だとは思うのだが、芝居が上手いとはちょっと言い難い。ただおどおどしてるくらいの役なら良いのだが、今回の役は少し大きすぎたのではないだろうか?

夫を送り出すシーンやスーパーで試食を勧めるシーンが何度も何度も繰り返されるなど、映像の構成上はとても面白いシーンがある。しかし、肝心の神楽坂の演技に時々ちょっと気を削がれるのである。彼女にしか出せない何かがあるのは確かなのだけれど、なんか大変惜しい気がする。

終盤に神楽坂恵が大高洋夫にまたがって田村隆一の詩を暗唱するシーンがあるのだが、あれはまさに『愛のむきだし』で満島ひかりが聖書のコリント人への第一の手紙第十三章からの長い長い引用をするシーンを彷彿させる。しかし、こう言ってしまうと申し訳ないが、満島ひかりと並べてしまうと文字通り役者が違うのである。

園監督は『冷たい熱帯魚』に続いて、何故この女優をこんなにも重用するのかと訝っていたのだが、映画公開直前になって2人の婚約が発表された。なーんだ、そういうことか。

というわけで、僕にとってはちょっと期待外れの作品。でも、構成の巧さで見終わった後もいつまでも尾を引いている。この辺りがこの監督の力量なのだろう。

もし、次回作が『ヒミズ』でなければ、次の園子温監督作は見なかったかもしれない。『ヒミズ』にはめちゃくちゃ期待している。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY

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