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Monday, October 17, 2011

局内のデジタル・デバイド

【10月17日特記】 デジタル・デバイドとは通常、情報技術を使いこなせる者と使いこなせない者の格差を指す言葉である。情報機器を持っている者と持っていない者の格差と捉えられることもある。しかし、ウチのような会社の中では少し違う意味でのデジタル・デバイドがあるような気がする。

放送局などというところに勤務していると、情報技術を使いこなせていない人は相対的に少ない。PC を持っていない人は非常に少ないし、仮に持っていなくても会社では日常的に使っている。スマートフォンの所有率も、他の業界、他の会社、他の環境と比べると高いだろう。

しかし、そういう人の中には、単に情報機器を使っているだけであって、その機器がもたらした決定的な変化、その情報が飛び交う新しい様相に全く気づいていない人がいるのである。それが言わば僕らの業界での情報弱者なのではないだろうか。

ともかく彼らと話していると話が通じなくてげっそりするのである。

僕らはテレビだけではなく、(かつてはテレビを見ていた時間を結果的に削りながら)さまざまなメディアに接し、それらメディアの成り立ちについて身をもって学び、あるいは文献を読み、あるいはネット上で意見を交わし、そこに流れる意見の風向きと温度を肌で感じている。

ところが、ウチの会社には、いや、他の放送局でも間違いなくそうだと思うが、そういう外的刺激に全く身を晒さず、何も感じていない人がいるのである。

なんでそうなんだろう。今やそんな時期ではないではないか。

そうだ、黒船が来ているのだ──と言うと、これは外の世界のことをちゃんと感じている者の発言のように思われるが、実はそうではない。黒船云々の発言をするのは往々にして業界内の情報弱者なのである。

江戸末期に黒船が押し寄せた時には、黒船から人が降りてきて、荷物が運び込まれ初めて江戸の民は外国人と外国の文化を知った。今のメディアの状況がそれと違うのは、上陸する前の黒船の船員たちと、僕らは日夜連絡をとっているということである。

そして、放送業界におけるデジタル・デバイドというのは、接岸する前に乗組員と接点があったり彼らの情報を持っていたりして、いろんな新しい風を感じている者と、ただ黒船が来たとわめいている者の格差なのではないかと僕は思うのである。

かつてテレビは、必ずしもそれを望んだわけでもないのに、結果的に極めて独占的な状況にあった。それはつまり、

  1. テレビ番組はテレビ受像機でしか見られなかった
  2. テレビ受像機はテレビ番組を見ることしかできなかった

ということである。1)のほうは時代とともに少しずつ崩れて行ったが、2)は長らく不変の原則で、それがここに来て一気に崩れかかっているのである。

問題はそれがピンチかチャンスかということではなく、前提条件が変わってきている以上僕らの運用方針も何であれ変わる必要があるということである。

僕らの先輩たちは、テレビ番組をテレビ以外の媒体で見せようとする者にストップをかけ、テレビ以外のものを見られる受像機を発売しようとする家電メーカーには必死でプレッシャーをかけてきた。

今この期に及んでも、黒船の何たるかを知らない人たちはまだそれを必死でやり遂げようとしてる。そういう人たちと話していると本当に頭が痛くなってくる。

黒船を打ち払うか受け入れるかという議論に汲々としている人たちを見ると、この人たちにはどのように話して行けば良いのか分からなくなる。

僕らは黒船は是か非かということをまず決めようなんて思っていない。いろいろ情報を得て、へえ、黒船ってカッコいいなあ、もっと知りたいなあ、中にも乗り込んでみたいなあなどと思っていて、それが思考や行動のスタート点になっているのである。

それってごく自然なものの感じ方だと思うのだが、違うだろうか?

そんな風には全く思ってくれない人と僕らは話をしている。別に自分が一歩進んでいると自慢するのでもない。あいつらは馬鹿だと軽蔑しているのでもない。

一番困っているのは、このギャップが日に日に大きく広がって行っているということである。ネットを使うものにはどんどんと情報が集まり、知識が増え、新しい流れを感じ、新しいネットワークが構築されてますます情報が拡充される。そうでない人は相変わらずそうでない。

そういう流れの中で、僕らはどうすれば良いのだろうか、と時々弱音を吐きたくなるのである。そう、この文章はひとことで言って弱音である。

弱音を吐きながらでもやることをやるしかないことは分かっている。でも、弱気を吐きながらでなければ、なかなかやりきれないのも確かである。

まあ、気は重いが、幸いにして僕にはネット上の友だちがいる。ネットの住民たちがいろいろとアドバイスをくれ助けてくれる。友だちを増やすこと、そして、あっち側の友だちをひとりでも多くこっち側に引きずり込むこと──とりあえずそれが僕の課題である。

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