映画『一命』
【10月21日特記】 映画『一命』を観てきた。普段から時代劇は好まないのだが、三池崇史が監督で満島ひかりが出ているとなると見ざるを得まい、という気になった。3D 版も作られているが、僕が見たのは 2D である。
しかし、それにしても、もう随分前にポスターで満島ひかりの姿を見た瞬間に、これは時代劇の顔ではないぞ、と思った。とても違和感がある。
だって、時代劇に沖縄の人が出てくるのは不自然なのである。と言うか、日本髪を結って着物を着た姿を見て初めて、ああ、この子は琉球人なんだと気づいた。そう思って調べてみると、な、なんとお祖父さんはフランス系アメリカ人だそうな。なおさらである。
加えてあのスレンダーな体型である。如何に満島ひかりが好きな僕でも、こりゃちょっとミスキャスト、と言うよりも、時代劇は無理なんじゃないかな、と思う。
そして、何よりも疑問だったのが、彼女の子供時代を演じたのが、なぜあのような丸顔のぽっちゃりした似ても似つかない女の子だったのかということ。病気でやつれる役柄なので、その「使用前」的な対比か? まさかね。
まあ、そんなことは措いといて(措いといて良いのかどうかも措いといてw)、しっかりと撮った面白い映画であったことは間違いがない。
昔の映画に『切腹』というのがあって、その中に竹光で腹を切らされる壮絶なシーンがあるという話は何かで読んで知っていた。ただ、この『一命』がその『切腹』のリメイクであることはついこの間知ったばかりである。
僕は勝手に、そんな壮絶なシーンなら映画の終盤、クライマックスの部分にあるに相違ないと思っていた。それが冒頭に近いところに出てきたのでちょっと驚いた。で、この辺りはやはり三池崇史監督である。恐らく昔の『切腹』では竹光が腹に刺さっている部分は映していないはずだ。これが三池版となると、今回はスプラッタ風ではないが、まさに目を開けて見ていられないほど痛い。
この映画ではその切れない刀での切腹はストーリーの発端でしかない。で、その発端を描いてから、映画は回想シーンでその発端が引き起こされた背景を描き、そして、その発端が発端となって何が起こったかを描いている──などと書いても何のことやらさっぱり分からないだろうが、まあ、事細かくストーリーを書くわけには行かない。
大どんでん返しがあるわけでもないので、ネタバレというほどのことでもないのだが、何も知らずにご覧になったほうが良いと思う。
昔の映画の設定や脚本をどれくらい引き継いでいるのか知らないが、とてもしっかりとした脚本だと思った。山岸きくみという名前には全く記憶がなかったのだが、調べてみたら香取慎吾の『座頭市 THE LAST』を書いた人。うむ、あの映画はあんまり感心しなかったんだけどな。
なんとも皮肉、と言うか、人の世の哀れと言うか、激越なのに物悲しい映画である。もちろん三池映画らしいアクション(と言うか、この場合は「殺陣」だな)もあるし、全体に三池崇史らしいトリッキーな感じも溢れている。ストーリーとしても蒔いた種は全部ちゃんと拾っている。画も落ち着いて如何にも時代劇らしい重みさえある。
そして役者陣であるが、主役の瑛太も市川海老蔵も、鬼気迫る演技である。特に海老蔵が凄い。今さら何をと思われるかもしれないが、さすがに歌舞伎役者は声が良い。ものすごい迫力である。そこにややくぐもった声で絡んでくる役所広司も見事。足が悪く引きずって歩く設定にしたことも成功で、見る者に強い印象を与えていた。
そして、3人の若侍役の青木崇高、新井浩文、波岡一喜──このクラスの脇役では非常に上手い人たちである。
しかし、僕は時代劇を見る度にどうしても「何故時代劇なんだろう?」と思ってしまうのである。いや、全ての選択に必然性が必要であると考えているわけではない。ただ、せめて違和感のないようにしてほしいのである。僕はいつも、「長い長い歴史の中でどうしてこの時代を取り上げたのだろう?」と余計な意味を探ってしまうのである。
例えば同じ三池作品でも『十三人の刺客』の場合は理屈抜きのアクション映画でありエンタテインメントであるので何の違和感もない。ただ、この『一命』みたいな映画になると、何故今このテーマなのだろう、みたいなことがどうも引っかかって仕方がないのである。
そして、それよりも何で今生きている時代ではなく、わざわざ過ぎ去った時代を描くのだろうという疑問が湧いてくる。「過去に素材を求めながら現代を描いているのだ」と反論されたことがあるのだが、ならば何でそんなまどろっこしいことをするのか、そこに違和感を覚えてしまう。
まあ、でも、そんな僕がこれだけ楽しんだのだから、この映画は成功なのだろう。
ただ、最後にもうひとつだけブツブツ言わせてもらうと、どうしてこの映画を 3D にする必要があったのかな? それがよく解らない(まあ 3D 版を見ればひょっとしたら納得するのかもしれないけど)。んで、あの降雪はどう見ても 3D のための小道具にしか見えない。あれで斬り合いが見えにくくなっていたので、「ああ、雪は要らんのになあ」と、心のなかで独りごちた。
でも、まあ、その辺にしておこう。
この原稿においては褒めているところより貶しているところのほうが面積が大きいかもしれないが、しっかりと撮られた、面白い、観る価値のある映画である。特に三池ファンなら見逃す手はない映画だと言っておこう。
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