エビの裏返し
【10月25日特記】 僕は天ぷらが好きらしいのである。何年か前まで自分でも気づいていなかった。
もう20年くらい前だが、胆石で入院・手術をした母が、「私は脂っこいものが好きやから、仕方ないわ」と言うのを聞いて、僕も姉も初めて母が脂っこいものが好きだったということを知った。
そう言われれば小さい頃から天ぷらとか竜田揚げとか、我が家の献立には割合揚げ物が多かったが、それはてっきり子供たちは一般に揚げ物が好きだから、それに合わせて母が作ったのだと思っていた。しかし、真実は、どうやら自分が好きだったらしいのである。
考えてみれば、僕も姉も、それまであまり母の食べ物の好みなんて考えたことがなかった。母はいつも作ってくれる側の人であり、食べる側の人ではなかったからなのだろう。
そして、そのことに気づいて意識し始めたからなのか、それから何年かしてから自分もひょっとして脂っこいものが好きなのではないかという気がしてきた。いや、必ずしもそうではない。ただ、どうやら天ぷらは好きなようなのである。そのことは何年かかけて確認し、確信を持つに至った。
で、天ぷらが好きなのは別に良いのである。ただ、僕と親しい人はみんな知っていることだが、僕はエビ・カニが嫌いなのである。そう、天ぷらと言えば主役はエビではないか。
別にアレルギーではない。だから食べたからと言って蕁麻疹が出る訳でもぶっ倒れる訳でもない。ただ、エビの場合は種類にもよるが、無理やり食べると吐き気がする程度には嫌いである。
そういう訳でうかつに天ぷらは注文できない。だから逆にエビが入っていない天ぷらを見つけるとついつい注文してしまうのである。野菜天ざるとか、穴子天丼とか、小エビの入っていないかき揚げとか・・・。
これって我ながら情けない気もする。いじらしい気もする。
エビが好きで天ぷらを食べている人もいるのだろう。それを裏返せば、どうやら僕は衣が好きで天ぷらを食べているようだ。
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