『Hotwax presents 歌謡曲 名曲名盤ガイド 作曲家編 1959-1980』高護編著(書評)
【9月3日特記】 知っていたらもっと早く買っていたのですが、出ていることを知らなかったので慌てて買いました。絶版にならないうちに気づいて良かったです。このシリーズ、前にも記事にしましたが、僕が買ったのはこれが3冊目です。
『Hotwax presents 歌謡曲 名曲名盤ガイド 作曲家編 1970s』(これについては書評も投稿して掲載して頂きました)と『1980s』を持っています。『1960s』は時代的に少し面白みに欠けるので買いませんでした。ちなみにこの3冊はすでに一般の書店では手に入らないようです。
言わずと知れた、歌謡曲研究者の第一人者・高護先生の編著です。まだ冒頭数ページしか読んでないのですが、いやあ、予想した通りの宝物みたいな本ですね。
『19X0s』のシリーズは言わば編年体の正史であるのに対して、こちらは紀伝体。まさに司馬遷の『史記』のような血湧き肉躍る読み物になっています。『19X0s』シリーズの後に『歌謡曲番外地』シリーズのような文字通りの番外編がいくつか出たので、まさかこういう形で日本ポップス史が編み直されることになるとは予想していませんでした。
高護先生についてはここではあまり多くを語りませんが、僕がまさに心酔している研究者です。これほどよく聴きよく知っていて、これほど的確な分析と表現を操り、かつ、マニア的ヲタク的な視点をしっかり保持している人は他にはいません。
最初の数章の目次(即ち取り上げた作曲家名)を紹介しておきましょう。
中村八大、浜口庫之助、宮川泰、いずみたく、鈴木道明、平岡精二、すぎやまこういち、鈴木邦彦、…。
ここまで読んでうっとりした人は、最後までその気持ちが続くこと請け合いです。整然と並ぶ膨大なレコード・ジャケットの写真を見ているだけでも飽きません。
そして、例えば中村八大であれば『太陽と土と水を』みたいな、誰もがもう忘れていた名曲をきっちり拾ってありますし、宮川泰であればザ・ピーナッツのナンバーと『宇宙戦艦ヤマト』の間にちゃんと沢田研二の『君をのせて』を入れ込んであります。筒美京平には、当然の処置ですが、他の作家の3倍のページを割いてあります。
不満なのは中村泰士のページにジュディ・オングの『リクエスト』が入っていないことくらいです。その代わりと言っては何ですが、大信田礼子の『何がどうしてこうなった』なんて、記憶からほとんど消えかかっている曲を思い出させてくれる作品が載っていたりします。
終盤には吉田拓郎や中島みゆきなどもリストアップされています。そして、いつもながら高護先生の本領発揮とも言うべきところですが、三枝伸に半ページ割いてくれています。こういうところが、まさに僕が全幅の信頼を寄せる所以です。
オリコンのデータをベースにしたリストのページも、網羅的ではありませんが、象徴的に充実しています。
すぎやまこういちの最初のページには「全文を以下に差し替えます」とする「訂正のお知らせ」なる紙が挟み込まれており、読み比べてみてこれがそんなに支障があったのだろうか、どういう経過でこういう処置に至ったのか、などを考えていると、なおもマニア的興味は尽きないのでありました。
本当に気づいて良かった。本当に買って良かった。これこそマニア垂涎、研究者必携のバイブルではないでしょうか。
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