『もてなしごはんのネタ帖』山脇りこ(書評)
【8月27日特記】 知人の料理研究家・山脇りこさんの初めての本(電子出版は除く)である。
まず、何が素晴らしいって、写真がきれい!
──なんて書くと、りこさん、ちょっとがっくりするかもしれない。そう、見た目がきれいでも食べたら大したことない料理って世の中に意外に多いもので、そういうことを考えると、写真ではなくレシピを褒めるべきなのだろう。しかし、入り口としてはこれはとても大事なことなのである。
写真がきれいだとまず美味しそうに見えるという利点がある。そして、もうひとつのメリットは作ってみたい気になるということである。本は残念ながら直接食べられないので、本当に美味しいかどうかをすぐに確かめることはできない。そうなると勝負は作ってみたい気にさせるかどうかで、そういう意味からするとこの本は大正解なのである。
で、読めばすぐに解ることだが、多少とも料理を嗜む者が見ると、「なるほど、その組合せは旨そうだ」というレシピが次から次へと並んでいるのである。そして、いざやってみるとあまり面倒な料理はない。時間のかかる下拵えも必要ないし、手に入りにくい食材も使っていない。
この手の“きれいな料理本”にありがちなのは、「そんなもんウチの近所のスーパーで売ってまへんがな。ああ、この人は僕らと住んでる世界がちゃうわ」などと思わせてしまうことだが、そういう面は全くない。ちょっと小洒落た調味料や酒類、こだわりの薬味などが出て来るところもないではないが、でも、それがないから作るのを断念しなければならないようなものでもない。
りこさんのブログではあまり細かいところまで作り方が載っていなかったので、今まで真似して作ってみても何かどこかが違うような気がしていたのだが、この本を読んで、「ああ、そうか。そうするのか!」とストンと落ちた気がする。
作ってみれば解ることである。端的に美味しい。
そして、話はもとに戻るが、このきれいな写真とレイアウトである。食材とソースと食器とクロスと本の装丁のコンビネーションである。わざとガラス製の食器に盛って、それを鮮やかな色のクロスの上に据えて、色を透かせてあったりもする。──その粋、そのセンス!
そう、タイトルにあるように、これは「もてなしごはん」のネタ本なのである。人をもてなす時にはこうしましょうというヒントは、もちろんレシピの中にもあるのだが、それは食器やクロスの組合せにも現れ、それが本のデザインと相俟って止めを刺すのである。
多少料理に自信があっても、本を出版するに至らないのは何故か?──それは、我々にはこういう色彩感覚やセンスがないからなのである。
一度こんな風にもてなされてみたいものだ。そして、見ているだけでもてなされたような気になってくる本であり、「よう~し、次はこんな風にもてなしてみるぞ!」という気にさせてくれる、文字通りのネタ帖ではないだろうか?
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