TBS月曜ゴールデン『遺品整理人谷崎藍子II』
【6月5日特記】 録画しておいた TBS月曜ゴールデン『遺品整理人谷崎藍子II』(MBS制作)を観た。前作が良かったので。そう、まさに僕以外にも前作が良かったと思った人が多かったからこそ、このシリーズ第2作が実現したのだろう。
前作では栗山スミ子(加賀まりこ)が経営する遺品整理会社に新人の工藤(窪塚俊介)が入ってきて、思ったよりも遥かに大変な仕事内容に怖気づきながら、先輩である谷崎藍子(高畑淳子)の一途な仕事ぶりに感化を受けて、この仕事を続けて行こうと心を決めるところまでが描かれていた。
今回も前作同様、工藤の語りで物語は進められる。そして前回同様、月曜ゴールデンらしくやっぱり殺人事件で幕を開ける。しかし、このドラマは、いろんな職業の登場人物が警察そっちのけでいろんな事件を解決して行くという、2時間ドラマにありがちなテーストではない。
「どんな人間でも遺品をつぶさに観察してみれば、その人の送ってきた人生が見えてくる」というのがテーマ、あるいはキー・コンセプトで、描かれるのはひたすら人間である。犯人であれ被害者であれ、悪人/善人という単純な割り切り方は決してできないものであり、曰く言いがたい人生の葛藤が見えてくるものなのである──そんなことをこのドラマは言っている。
今回も前回と同じく遺品整理人の仕事のありようを説明するための短いエピソードを挟んだ後、夏目礼子という有名なセミナー講師(森尾由美)が、藤原美咲(大久保佳代子)と上田昌也(酒井敏也)をひとりずつ殺すところから始まる、所謂倒叙法である。
美咲は礼子の差し金で結婚詐欺を繰り返していた。上田は現在美咲が詐欺を仕掛けている相手で無事に1000万円の現金も騙し取れていたのだが、ここにきて美咲は上田に本気になってしまい、もうこんなことやめて結婚して幸せになりたい、と言う。それで美咲は次々に2人を殺す。
美咲はどんな生い立ちだったのか、どんな経緯で礼子と知り合ったのか、そしてどうして結婚詐欺をするようになったのか、その辺りのことが谷崎藍子が遺品を整理して行く中で徐々に明らかになってくる。
栗山社長は「ウチは遺品整理会社なんだからね。探偵じゃないんだから」と言いながら谷崎の行動に理解を示す。そして、いつも栗山の会社に遺品整理の仕事を持ってくる三田村刑事(矢崎滋)は、自分たちの捜査と違う可能性を示す藍子に、「もう、今回だけにしてくださいよ。この事件は無理心中の線で固まりつつあるんですから」などと言いながら、やっぱり藍子に協力的である。
この2人のレギュラーメンバーがうまく絡んで、台詞も面白いし、展開も粋である。却々巧い脚本だと思う。脚本は清水有生。
かつては『金八先生』で有名なTBSの柳井プロデューサと一緒に、従来のドラマ的なもの、あるいは、旧いTBS的なもの(石井ふく子/橋田壽賀子的なもの)と言ったほうが良いかもしれないが、そういうものをひたすら壊す役割を担ってきた人だ。見ている人間が嫌がるようなキャラを描くのが巧い人だという印象がある。
あの頃はそういうやんちゃな新進気鋭の印象があったが、今ではすでにベテランの域である。
このドラマにはそんな神経を逆撫でするような人物は出てこない。こう言ってしまうと身も蓋もないが、ま、割と善い人ばかりである。
で、結構わざとらしい演出である。流麗かつ荘重なBGM はほとんど鳴りっ放し。最後の、森尾由美が回想シーンを挟みながら車の中で泣くシーンひとつ例に取っても、これでもかというくらい粘りのある見せ方である。それにも関わらず、そんなに嫌味が出ないのはやはり脚本が良いからなのだと思う。
さあ泣け、というほどの感じはないのだが、視聴者を泣かすためには多分これくらいやっといたほうが良いんだ、という思いが透けて見えてくる感じがするのは、たまたま僕が演出者を知っているからなのだろうか。
まあ、でも、贔屓目なしで良い作品だと言える。シリーズ第3作もきっと仕事と関係なく観るだろうと思う。
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