『プリンセス・トヨトミ』万城目学(書評)
【6月11日特記】 映画を見ようと思ったのだが、原作を先に読んだほうが良いと強く勧められて文庫本を買った。
今までに読んだ万城目学は『鴨川ホルモー』1冊だけである。京大卒の京都の人だと思っていたが、生まれ育ちはこの小説の舞台である大阪城周辺で、大阪城にはひとかたならぬ思い入れを持っている人なのだそうである。
全然本を読んでいない人でも、映画の印象的な予告編で大体の内容は知っているのではないだろうか。
会計検査院から3人の調査官が大阪にやってくる。そこで大阪国なる国があることが判り、大阪国大統領である真田幸一の号令一下大阪国民が立ち上がる──なんのことだかわからんが、多くの人が映画の予告編から仕入れたあらすじは、ま、こんな感じだろう。
言うまでもなく奇想天外な小説である。で、最後まで読み終わってよくよく考えてみると、いくつか細部で辻褄の合わないところもある。しかし、その辻褄を無理やり合わせて、どうだ、よく考えただろう、というタイプの小説ではないのである。
とんでもない非日常を描いておきながら、そこで描かれているのはむしろ気のいい大阪人の日常である。それは幾分、いざとなったらカッコいい大阪のおっちゃんらという風にも描かれている。
最後の最後まで読むと、大阪のおばちゃんらも面目躍如となる──その部分がこの小説の白眉ではないかと僕は思うのだが、もちろんネタバレになるのでこれ以上は書けない。
ともかくキャラが立って、それぞれの人物が活き活きとしている。松平、鳥居、ゲンズブールというバラバラのキャラの3調査官──エリートとミラクルとハーフ。
大輔、茶子、島ら地元の中学生──女の子になりたくてセーラー服で登校する大輔と、それに腹を立ててリンチを加える同じ中学の蜂須賀勝、そして蜂須賀に単身報復する茶子。さらに大輔の父で普段はお好み焼き屋だが実は大阪国大統領の幸一。蜂須賀の父で暴力団組長の蜂須賀正六──この辺がいろいろと絡んで飽きさせない。
で、5月31日の一夜限りの大事件があるが、これがまた夢のようにぼんやりと消えてしまう。まさにそういう感じを狙って書いたのであれば見事な書きっぷりである。
さながら真夏の夜の夢のような、いや、むしろ白昼夢と言おうか、大阪人が「こんなんあったらええな」とぼんやりと大阪城に託したロマンのようなものを、なんやほんまにほんわりと描いたある。読み終わったら(今まで一回も行ったことないけど)ちょっと空堀商店街とやらを歩いてみとうなる。
そういう「ええ感じ」の小説である。大阪以外の人にも解んのんかな、この「ええ感じ」が?
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