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Tuesday, June 07, 2011

映画『軽蔑』

【6月7日特記】 映画『軽蔑』を観てきた。僕は中上健次という作家は読まずに来た。この原作も読んでいない。この作家、この原作については、もっと社会的な、と言うか、新しい世代と旧い世代の激突の構図を描いた政治的なお話だと勝手に思っていたのだが、全然違った。

これは田舎のしがらみだらけの生活と都会の自由な生活を対比させ、そこに若者の身勝手と鬱屈を重ね描いた、むしろ古典的なテーマである。そして、途轍もない純愛ドラマである。原作もこんなテーストだったんだろうか?

僕の目当ては鈴木杏であり、監督の廣木隆一であった。

鈴木杏は1999年の『ヒマラヤ杉に降る雪』で初めて見たとき(まだ彼女は中学生になったかならないかという年齢であったはずだ)から、この子は必ず出てくるだろうと思って期待していた。2004年の『花とアリス』以降、『頭文字D THE MOVIE』以外の出演作は全部見てきたが、紛れもなくこの『軽蔑』が彼女の最高傑作となるだろう。

決して美人女優ではない。しかし、表情がとても良いのである。

カズに初めて向き合って「ちゃんと誘って」と言ったときのオドオドした眼の動き、カズに載せられた軽トラの窓から風に吹かれているときの、恋をしている女の表情。切羽詰ったときの、負けまいとする強い眼の輝き。ファンとしては、なんとかこの作品で賞を獲らせてあげたいなあと思う。

眼と言えば、高良健吾もまた眼力(めぢから)の強い役者である。

初めて見たのは青山真治監督の『サッド ヴァケイション』で、異父兄である浅野忠信にボコボコにされる少年の役だった。ものすごく印象に残ったのに、あの時なぜだか僕はこのまま消えてしまう役者だろうと思った。それが今では軒並み主演作が続く大物になった。

映画はこの2人の純愛物語である。

カズ(高良健吾)はひと言で言ってしまうとチンピラである。真知子(鈴木杏)は新宿歌舞伎町のトップレスのポールダンサー。あることから歌舞伎町にいられなくなったカズが、前から好きだった真知子を誘って(真知子のほうもカズにぞっこんだったので)海辺の故郷に帰る。

しかし、故郷に帰ってもカズのチンピラ体質は変わらない。一応酒屋の配達の職に就くが、昔の悪い仲間とつるんでサボってばかり、バカラ賭博の秘密クラブを経営している山畑(大森南朋)から多額の借金をするが、最後には金満家の父(小林薫)に頼ればなんとかなると反省の色はない。

一方の父は自分の息子には地元の普通の娘と結婚させようとしてカズと真知子の結婚を認めない。いや、父だけでなく、田舎の町の人間は誰も皆真知子を色眼鏡で見ている。そのことにカズは我慢がならない。

というような展開である。

廣木隆一監督の特徴は何と言ってもあの引いた画である。2人の人間を大きな画面の中にポツン、ポツンと配して来る。一般的には画に変化をつけるためにロングからずっと寄って行ったり、あるいは人物が喋り始めるとアップに切り替えたりするものだが、廣木監督は引き画のまましゃべらせる。

カメラは辛抱して寄らない。背景には往々にして遠景が取り入れられ、それが何とも言えない寂寞たる情感を伝えてくる。カメラが寄らないので勢い長回しとなる。

もちろんカメラが動く長回しもある。終盤の2人が電車に乗り込むシーンは途切れなく10分も続く。始まってすぐの駐車場のシーンも長い。しかし、僕はむしろ固定カメラの引き画のほうに威力を感じてしまう。

あの地下駐車場での高良と鈴木杏の芝居の瑞々しさ。川岸のカズから離れて川の中に遊び行く真知子を遠景で捉えたシーンのしっとりとして、しかし神々しいほどの幸福感。画面の右端と左端に離れて座り、お互いに顔を見ないで会話するカズと父親の距離感と危機感。

ともかく引いた画がものすごく雄弁に語っているのである。

そして、鈴木杏の裸がなんときれいなことか。2人のセックス・シーンは何度も出てくるが、歯止めのかからない若さと愛と情欲を見事に綯い交ぜにして表現していると思う。

脚本は『しゃべれども しゃべれども』、『サマーウォーズ』、『パーマネント野ばら』、『八日目の蝉』と、このところ目を瞠るような作品を連発している奥寺佐渡子である。

金はあるのに如何にも満たされていない感じの山畑、それに対して借金まみれで自分に甘く、身勝手なのにみんなが助けてくれるカズ──この辺の、言葉では言い表せない対照が、とてもうまくスクリーンに映し出されている。

あくまでも基本は純愛ドラマである。社会から阻害された若者の純愛ドラマである。

今の世の中、特に若い人には多分こういうテーマはあまり受けないのではないかと思う。最後のシーンなんかでも「なんでそんな状態でタクシーに乗ってるんだ?」みたいなところが引っかかってきて、「なんだそれ?」で終わってしまうのではないかと思う。

しかし、トータルな表現としてのこの映画の卓越をよく観てほしいなあと思う。役者の身体の動き、カメラの動き、台詞の流れ──僕は良い映画だと思った。そうそう、恋するって、本来こういうことだったのかもしれないとしみじみと思った。

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