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Saturday, May 28, 2011

映画『マイ・バック・ページ』

【5月28日特記】 映画『マイ・バック・ページ』を観てきた。

目当てはツマブキでも松ケンでもない。70年安保や全共闘/新左翼運動に興味があったらかでもない。山下敦弘監督である。川本三郎の自伝的ノンフィクションが基になっていることも、そのタイトルがボブ・ディランの曲名から取られていることも、映画を見終わってから初めて知った。

沢田(妻夫木聡)は安田講堂陥落の時には東大生で、学生運動には加担せず、仲間たちの戦いが終わるのをなすすべもなく見ていたという敗残の思いがある。卒業して新聞社に就職し雑誌記者となったが、そういう後ろめたさを背負っているために先輩記者たちからはジャーナリストとしては甘すぎると責められる。

梅山(松山ケンイチ)はもう少し若く、安田講堂には間に合わなかった。安田講堂を見て「これだ!」と思ったという、沢田の世代から見たら脳天気な大学生であるが、自分も活動家として伝説的な先輩たちに追いつきたいという強烈な憧れを持ちながら、一方で何もできていないという焦燥感を抱えて空回りばかりしている。

この2人が出会う。先輩記者の中平(古舘寛治)は梅山は偽物だから近づくなとアドバイスするが、沢田は何故だか梅山と意気投合してしまう。

今回はそれ以上の筋は書かないでおく。この辺までがギリギリかなという気がする。僕は何も知らずに見たが、それが一番良いのではないかと思う。もちろん、安保とか新左翼とか安田講堂って何?と言う若い人たちは多少歴史背景を勉強しておいたほうが理解はしやすいかもしれない。

僕は全共闘も安田講堂も知らない。いや、まるで知らないわけではない。テレビを通じて断片的に、社会現象として知っていた。だが、1969年の安田講堂の攻防戦以降、学生運動は一気に下火になり、僕が大学に入った頃にはまだ完全に火が消えてはいなかったものの、それはまさに埋み火というレベルであった。

しかし、それでも学内には学生活動家がまだ大勢いて、授業に乱入してきてそれをクラス討論会に変更させたりした。僕らは初めて政治というものの前に晒されて語る言葉を持たず、かと言ってはねつけるほどの自信もなく、自分はこれで良いのかと真剣に悩んだ。

だから沢田の罪悪感や梅山の闇雲な焦燥感はよく解る。全共闘世代がこの映画を見るときっと「いや、それは違う」という部分がたくさんあるのだろうが、しかし、ある時代までは若者に絶対的に共通であった、こういう内面心理はよく描けているのではないだろうか。

脚本はいつも通り山下敦弘の盟友である向井康介が書いている。ものすごくよく書けた脚本だと思う。彼はインタビューに応えてこう言っている:

時代を描くというより、団塊の人たち、特に全共闘を経験した人たちのその後の引きずり方、その感じを上手く出せればなと思いました。

ちなみに、山下は1976年、向井は1977年生まれ──安田講堂はもちろん生まれるはるか前で、まさに僕が「埋み火」と書いた頃にやっと生まれ落ちた人たちである。

今回のカメラは、時々長回しと言うより放ったらかしみたいに役者に長い芝居をさせながら、ともかく顔のアップがやたらと多い。そういう意味ではちっとも面白くないカメラワークなのに映画にここまでの緊張感が出ているのが信じられないくらいである。それはやはり役者たちの演技の凄さによるのだろう。

監督は語っている:

今回は初めてコンテを割らなかった。まず芝居を見てから割るということをしたんですね。だから、時間もかかったし、すごく疲れたなと(笑い)
(中略)何を優先させるかと言ったら、やっぱり役者の芝居しかない。役者でつないでいかなければ、最後まで持っていけない気がしてたんです。キャスティングも含めて、そこが一番難しかったところかもしれません。
(以上、引用はいずれもパンフレットから)

この狙いはものの見事に当たっている。

沢田の弱さ、甘さ、そして真面目さ。一方で梅山の粗さ、ずるさ、そして自信。妻夫木聡と松山ケンイチの2人が一方でシンクロしながら、他方では強烈に対照的に演じている。その両面を見せられることで、観客の心の中で共鳴が大きくなるのである。

そして共演者の充実。

揺れる沢田とは対照的にしたたかに生きる手練の先輩を演じた古舘寛治。
自信とハッタリで生きている梅山と、彼を慕う、不安で一杯の後輩を演じた中村蒼。
名のある2人の活動家を演じた長塚圭史と山内圭哉。
ちょっと窓際っぽくなってきた編集デスクのあがた森魚と如何にもエリート社会部長という感じの三浦友和。
──ここにはたくさんの対照が盛り込まれている。

そして女性たち。今から見れば女性たちの地位が遥かに低かったことがよく解る。映画の中でも女優の占める割合は低い。しかし、なんと印象的なことか!

活動仲間の2人を演じた石橋杏奈(彼女は梅山の恋人でもある)と韓英恵がこれまた対照的に描かれる。何の説明もなかったが、あの韓英恵の涙はどういう意味だったのか? 解らないようでありながら共感してしまう。

そして最後に表紙モデルの高校生を演じた忽那汐里が今回抜群に良かった。アップに耐え、眼で多くを語った。「私はきちんと泣ける男性が好き」というキーになる台詞も与えられ、脇でありながら非常に重要な役どころを、瑞々しい演技で見事に務めたと思う。

山下敦弘監督の作品は『リアリズムの宿』以降は全部見ているが、これは紛れもなく山下監督の代表作になるだろう。今までのどの山下敦弘でもない。しかし、明らかに山下-向井のコンビでなければ撮れなかった映画である。

素晴らしい脚本と演出に、いや、それ以前に今この時代にこのテーマを選んだことに心からエールを贈りたい。驚嘆した。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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