ドラマW『再生巨流』
【4月17日特記】 録画したまま放ってあったドラマW『再生巨流』を観た。原作は楡周平の同名小説。監督は鈴木浩介。
大雑把に分類すると経済ドラマである。
主人公はスバル運輸営業部次長・吉野公啓(渡部篤郎)。冒頭の会議の短いシーンだけで、吉野が他の業界から転職してきて5年でかなり成績を挙げていることが簡潔に語られて、非常に手際のよい脚本だと思った。
だが、それだけに吉野に敵は多い。ある日突然吉野は新設の新規事業開発部に左遷される。
形だけは部長昇格だが、部下は入社以来一度もノルマを達成したことがない立川(尾上寛之)と如何にもやる気のなさそうな事務員・岡本(山田麻衣子)の2人だけで、しかもノルマが年間10億円という、どう考えても嫌がらせでしかない人事である。
しかし、吉野は不屈の闘志と企画力で新規事業をモノにして行く、というお話である。途中から部下として元甲子園球児の蓬莱(中村蒼)が加わって、非常に良い働きをする。
吉野のライバルというか敵役が2人出てくる。ひとりは社内。冒頭のシーンで部下の吉野を怒鳴り散らしていた男、そして吉野を左遷した張本人である三瀬本部長(陣内孝則)。そして、もうひとりはライバル会社・極東通運の取締役・近藤(松重豊)である。
近藤は元はと言えば吉野の商社マン時代の上司。近藤が目先の利益のみを追い、自分の立場ばかりを守ろうとするのに嫌気がさして吉野は転職する。しかし、今度は近藤が同じ運輸業界の、しかも最大手に自ら転じてきて、2人は再び敵同士になる。
常に吉野の前に立ちはだかるこの2人の人物は、ともに悪人、あるいは志の小さい者として描かれるのかと思っていたら、一方は確かにそうだが他方は途中から少し違ってくるところが面白い。この2人の悪役の設定の妙が、このドラマの最大の面白さだと思った。
そして、スバル運輸の創業者であり、現在は半分引退気味でありながら隠然たる権力を握り、独特の眼力をもって人の資質を見抜き、最大のピンチのところで吉野を救うのが曽根崎会長(長門裕之)である。
これはこういうサラリーマン・ドラマに於いては如何にもと言うキャラなのであるが、しかし、長門が見事に嵌り役なのでマイナス要素にはならない。
経済ドラマである、と一括りにしてしまうと必ず「いや、人間を描こうとしてる」という反論が来るのであるが、ドラマである以上人間を描くのは当たり前である。ただ、この作品を観ると、僕は人間の描かれ方よりも仕事のアイデアや進み行きが描かれている部分のほうが遥かに面白いと思う。それが僕が冒頭に経済ドラマと括った理由である。
事実、画としての面白さはほとんどない。それはしかし、経済ドラマと割り切ったときに初めて気にならなくなるものなのではないだろうか。そういう中で渡部篤郎がしっかりと人物を演じきっているので飽きない作品になったと思う。
そして、冒頭にも書いたが短い時間にたくさんの設定とエピソードを非常に手際よく織り込んだ脚本だと思った。脚本は久松真一という人である。
ただ、最後の蓬莱に関するエピソードはちょっと「出来すぎ」の感が残った。別に必要なかったんじゃないかな。
明日の午後にもまた放送するようなので、WOWOW に加入しておられる方はご覧になってみれば如何だろうか?
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