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Wednesday, April 13, 2011

映画『SOMEWHERE』

【4月13日特記】 映画『SOMEWHERE』を観てきた。ソフィア・コッポラ監督・脚本。

例によって僕はソフィア・コッポラのことを「親の七光りの馬鹿野郎」だと思って、彼女のデビューした頃には全く見る気もなかった。

僕が何かにつけてニ世を嫌うのは、僕が小さい頃から父親に自分の仕事を継ぐように命じられ、ずっとそれに反発して生きてきた(そして幸いにも世襲を免れた)ということの影響が大きいのだと思う。ともかく名監督の息子や娘が監督をしていると聞いてしまうと、観ようという気が却々湧いてこないのである。

ところが、何がきっかけだったか憶えていないのだが、第2作の『ロスト・イン・トランスレーション』を観て心酔してしまった。これはひょっとするとフランシス・フォード・コッポラよりも優れた映像感覚を持った人なのではないか、と(実はフランシス・フォード・コッポラの映画もほとんど観ていないのにも拘らずw)。

それで、次作はぜひ観たいと思っていた。が、気がつけばこれが第4作である。なんと『マリー・アントワネット』が彼女の作品だったとは、今頃になって初めて知った次第である。

ま、でも、そのほうが良かったのかもしれない。僕にとっては『ロスト・イン・トランスレーション』からすんなり繋がった作品だった。

ジョニー(スティーヴン・ドーフ)はハリウッドの映画スター。有名なホテル「シャトー・マーモント」に暮らし、フェラーリを乗り回し、パーティに明け暮れ、女を漁りまくっている。そこに別れた妻と暮らしている11歳の娘クレオ(エル・ファニング)がやってくる。そして、前妻レイラが「暫く家を空ける」ことになって、当面預かることになってしまう。

冒頭のシーンから少し驚く。最初は真っ黒な画面に自動車の爆音だけ。やがてフェラーリが走ってくる画が被る。それがどこなのか最初は全く分からない。ぐるっと回って画面から消えた車が戻ってくるので、あ、どこかサーキット状の道なのだと思う。

一般的にはそうだと気づかせたところで車は停まるだろう。しかし、フェラーリは何周も走る。長い。そして何周目かで漸く停まる。ジョニーが下りてくる。

こういう風に一つひとつのシーンが長い。古い演出家が撮ると一般にシーンは長く、カット変わりが遅い。その結果かったるいリズムのドラマになるものだ。しかし、この映画はそうはならない。この違いは何なんだろうと思う。

そもそも、こういうシーン自体に意味がなかったりする。それ単独を取り上げて、「なぜこのシーンを入れ込む必然性があるのか?」と問われると、「別段ない」としか言えないシーンがいっぱいある。でも、映画全体として観ると、まさにこういうシーンの積み重ねがずっしりと効いてくる感じがある。

これは図式的に語れない映画である。いや、もちろん図式に集約できないものはない。この映画だって、「セレブ生活に明け暮れた男が、娘との交流の中で、ある日自分の生き方にどうしようもない欠落があることを感じて、新たな道に歩み出して行こうとする映画である」等々。

しかし、そういう図式にまとめるのなら、この映画は観なくて良い。これは、その存在自体が図式というものから零れてしまう映画なのである。

考えてみれば、今これほど、企画書になりにくい、企画が通りにくい企画もないのではないだろうか。シノプシスにすれば「何それ?」という話である。ここにはスペクタクルもサスペンスもロマンスもない。大当たりした原作があるとか、今をときめく大スターが出るとかいう、「当たる根拠」を示すこともできない。

だから、こういう映画が作られること自体がすごいなあと思う。ともかく画で語る映画である。つまりは本当に映画らしい映画である。

もう少し起伏のあるドラマかと思ったら、本当に、見事なくらい何も起こらない。父と娘のなんでもない暮らし(しかし、父親は映画スターなので当然我々庶民にはできない暮らしである)が淡々と綴られて終わる。

終わりはなんだか解らない。でも、余韻がある。解らないから余韻がある。いや、我々が希望に満ちた解釈を勝手にしてしまうから余韻があるのか──それはよく解らない。

けれど、不思議にデトックスになる映画である。心が融ける映画である。それは画が直接心に語りかけてくるからではないだろうか?

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Tracked on Wednesday, April 27, 2011 19:54

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