『歌謡曲 ──時代を彩った歌たち』高護(書評)
【3月17日特記】 敬愛して已まない高護(こうまもる)先生による戦後昭和歌謡史である。
高氏は1954年生まれで現在は(株)ウルトラ・ヴァイヴの代表取締役。プロデューサとしてサエキけんぞうや小島麻由美らを手がけ、マニア垂涎の幻の名盤『ソリッドレコード夢のアルバム』を送り出したのもこの人である。
しかし、高氏の真骨頂は何と言っても歌謡曲の収集・分析・評論であり、この世界で彼の右に出る者はないと言って良いのではなかろうか。『歌謡曲名曲名盤ガイド』シリーズのような、国宝級のムック本を出したりもしている。
その高氏が物した戦後/昭和歌謡史が本書である。1960年からの30年間を一挙に捉えている。
一見ヒット曲の分析の羅列のようでありながら、実はそれを点ではなく線で、静止画ではなく流れとして全体像を描いていいるところがこの本のすごいところなのである。
分析は詳しい、と言うより、むしろ細かい。
楽譜を提示するのではなくて、「この部分のメロディはファ#ソソ ファ#ソファ#ソララである」とか「コード進行は G → A7 → D → Bm → Em → Gm6 → A7 で」などという表記をかったるく思われる方もあるだろうが、逆に言えば音符を書かずにここまで深く解剖した書もなかったのではないか? この本を読めば、皆が聞き流している歌謡曲というジャンルを、彼が如何に聴き込んできたかが解るはずだ。これは余人には書けない。
断っておくが、これは歌謡曲というジャンルの歌謡曲マニアによる歌謡曲マニアのための分析であり指南書である。こういう分析が鬱陶しいという方は間違ってもお読みにならないほうが良い。
僕からすれば、この本を読んでいると同じマニアとして、「どうしてこの点を指摘しないのだろう?」という点がないでもない。しかし、マニアの力量としては高氏のほうが明らかに数段上なのであって、全体を見通したときに何か反論するところがあるかと言えば、それはほとんどない。
特にすごいのは、普通のファンであれば、例えば1970年代の歌にはめちゃくちゃ詳しいが80年代になるとちょっと、とか、同じ時代でも郷ひろみについては書くことがあるが西城秀樹については何も思いつかない、とか、女性アイドルついてはいくらでも書けるが自分と同性である男性アイドルに関してはあまり聴いてこなかったので、とか、そういう面があるはずなのに、高氏にはそういう穴が全くないということである。
だからこそ、彼はこの30年間を流れとして捉えることができるのである。しかも、川の底の土砂まで掬ってくる深い深い分析である。
終わり方が尻切れトンボなのがちょっと残念ではあるが、同好の士として、これは読み終わってため息ばかりの名著である。
僕の本棚の宝ものになるだろう。
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