映画『漫才ギャング』
【3月21日特記】 映画『漫才ギャング』を観てきた。品川庄司の品川ヒロシ監督の第2作である。自らの原作小説を自分で脚色している。なかなかの出来であった。面白かった。
しかし、それにしても客層があまりに若いのでびっくりした。客席の半分以上が中高生に占められていたのではないだろうか。
黒沢飛夫(佐藤隆太)は売れない漫才師。ボケ役。相方の借金苦と絶望感から突然コンビ解散を言い渡され、自棄になっていた。
鬼塚龍平(上地雄輔)は両腕に龍と鬼の刺青を入れて喧嘩ばかりしている不良。一応フーゾク店勤務という定職についてはいるが、将来の夢も希望もない。
その2人がひょんなことから留置場で出会い、即座にツッコミとしての才能を見抜いた飛夫が誘って、2人は漫才コンビを組むという話である。
冒頭、飛夫の漫才シーンと龍平の喧嘩のシーンを交互に細切れに挟んで行き、しかも、両方のシーンの台詞がシンクロしているという見事な脚本。今回の映画はこういう本作りの面で特に上手さを感じさせた。これは品川ヒロシという人の才能と言って良いだろう。
留置場のシーンでは、飛夫の心の中の独言の部分だけモノクロにして顔のドアップになるという演出も面白い。ともかく細かくカットを切り替えて、180度反対側の固定カメラの映像を重ねて行くかと思えば、飛夫と飛夫の彼女である由美子(石原さとみ)のシーンでは一転長回しになって、カメラ自身もゆっくりと動く。そして、漫才シーンはほとんどカットを切らずにきっちり見せてくれる。
佐藤隆太と上地雄輔のやり取りが、漫才シーンだけでなく日常会話の部分まで相当に面白い。そこに飛夫の元相方の石井保役で綾部祐二(ピース)、石井を追う借金取り・金井役で宮川大輔、龍平の同僚・デブタク役で西代洋(ミサイルマン)、石井のアパートの隣人役で秋山竜次(ロバート)らが絡んで場内は笑いが絶えない。
そして、デビュー作『ドロップ』からも分かるように、この監督はアクションがとても好きなのである。今回もかなりの分量の喧嘩のシーンがあって、その部分だけ取っても非常に見応えがある。しっかり組み立てられた擬斗にスローモーションなどカメラの技法も組み込んで、観ていて面白い。
その他にも、龍平の敵役で不良グループ「スカルキッズ」のリーダー城川役の新井浩文、「スカルキッズ」のメンバーながら城川とは反目する岩崎役の大悟(千鳥)、刑事役の笹野高史と金成公信(ギンナナ)のコンビ、金井の先輩格の借金取りで元漫才師の河原役の長原成樹など、脇も非常に個性的な役者で固めて磐石である。特に大悟の不良役は、アクションも含めてすごく良かった。
そして、なんと言っても文字通り紅一点の石原さとみである。驚異的に素晴らしい。佐藤隆太とのラブシーンを含む2人のシーンがなんと瑞々しいことか。恋をしている女性の表情というものをたっぷりと見せてもらった。終わり近くの髪を乾かしているシーンなんて、何でないシーンなのに胸が熱くなった。
非常によく構成された脚本で、布石の置き方、伏線の張り方が明確なので、逆に展開の多くは読みきれてしまう。ただ、周りの中高生たちにはあまり読みきれなかったらしく、いろんなシーンでバカ受けしていた。それならそれで良いではないか。それに読みきれたからと言って面白くないということではない。
それでも、最後の最後は見事に外してくれた。とても良い終わり方だと思った。あの展開で、キャスト/スタッフ・ロールが始まったら席を立つ人はいないと思うが、その後の最後のカットはなかなかである。期待してもらって良いのではないだろうか。
ストーリーとしては、まあ、青春ものであり人情噺の類である。それを巧くコメディに仕立ててあって、アクション・シーンもたっぷりで、上質のエンタテインメントだと思う。
品川ヒロシはお笑いタレントとしてはまあ中くらいの存在だろう。クイズ番組などで起用すると、「お笑い枠」で呼ばれているのに空気が読めずについつい自分の賢さをアピールしようとする、などと悪く言われる向きもある。
映画監督としては中くらいより上に行けるのではないだろうか。今回の映画を見て僕はそんな風に感じた。漫才師やタレントは続けながらで構わないので、今後も映画をしっかりと撮り続けてほしいと思った。
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