映画『ジーン・ワルツ』
【2月23日特記】 映画『ジーン・ワルツ』を観てきた。
みんながそうではないのかもしれないが、僕は最初に観た作品が良かったら暫くその監督に好意を持って追っかけることになる。
大谷健太郎監督の場合は『約三十の嘘』がそれだった。その次の作品が『NANA』であったことも大きな要因である。
その後の彼の作品は一応全部観ているが、今回この作品を見終わって思うのは、やっぱり巧い監督だということだ。
今回は海堂尊原作の医療ものである。
大学病院に勤務しながら週1日だけ、近々閉院が決まっている町の産婦人科で診察している女医(菅野美穂)と、その同僚で大学教授の座を目指している医者(田辺誠一)が主人公だが、他にも多くの医者や患者(妊産婦)などの人物とその思惑が交錯する。
冒頭に母子ともに死なせてしまった産科医(大森南朋)が犯罪者として逮捕されるエピソードが来る。
あまり筋を書くわけに行かないタイプの映画なので、その後は簡単に済ませるが、様々な事情による不妊、障害のある胎児、代理出産、高齢出産、妊娠中絶など、それぞれに重いテーマにまつわるエピソードが重ねられて行く。
ここで大上段に正義をふりかざされるとウザくて見ていられなくなるところだか、さすがにそれはない。だが、それでもやはりテーマが重いので中盤から少しもたれる感はある。難しいジャンルである。
逆に序盤は人物と設定を観客に解らせて行く手際があまりに良すぎて無駄がないので、少し説明的な印象さえある。
でも、基本的に非常に上手に構成された話なので、結局引き込まれてしまう。
顔のアップが多用されるが、ところどころに奥行きのあるとても綺麗な構図が出てくる(町の産院の俯瞰、玄関から廊下、大学病院の渡り廊下、屋上、等々)。
で、いくつものエピソードや布石が最後にひとつに雪崩れ込んで終結する。
映画は「命の尊さ」とか「生命の尊厳」なんてことは言わずに、「正しいとか正しくないとかじゃないんです」と言う。そこに僕らは、逆にある意味で救われるのである。
良い映画だった。巧い作品だった。ただ、この監督にはあまり、何というかこういう「真っ当な」路線に行ってほしくない気もした。
隣の席の女性客は涙していたけれど、正直言って、あまり僕の好きな大谷健太郎でなかったのである。後々も「『ジーン・ワルツ』の大谷健太郎」ではなく、やっぱり「『NANA』の大谷健太郎」と言われるようであってほしいのである。
末期癌で死期を悟っている町の産院の院長役の浅丘ルリ子と、産むかどうかで逡巡している夫婦役の白石美帆と音尾琢真(大泉洋ンとこの劇団員らしい)が良かった。それからヤンキー妊婦役の桐谷美玲──彼女は大谷監督の次の作品『ランウェイ☆ビート』でも重要な役柄を与えられている。これから出てくる女優だと思う。
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