WOWOW スペシャルドラマ「堤幸彦×佐野元春『コヨーテ、海へ』」
【1月10日特記】 1月3日に WOWOW で放送したスペシャルドラマ「堤幸彦×佐野元春『コヨーテ、海へ』」を録画しておいた。そしてそれを今日観た。
堤幸彦監督は元々佐野元春のファンで、そのことをブログに書いたことから佐野元春との交流が始まったらしい。そう言えば TBS『SPEC』の最終回の回想シーンにも佐野元春は出ていた。戸田恵梨香の父親役だった。今回のこのドラマにも病院の医師役で出演している。
そして、バックグラウンドには、(何曲か米国のヒット曲も挿入されるが)ほぼ全編に亙って佐野元春の歌が流れている。そう、これは堤幸彦が佐野元春のアルバム『COYOTE』に触発されて書いた物語なのである(脚本は似内千晶との共同)。
2人の男が旅するダブル・ロードムービーである。ひとりは北村(佐野史郎)、もうひとりはハル(林遣都)。北村には20歳の息子がいる。ハルには突然自分を捨ててどっかへ行ってしまった父親がいる。
北村は地球の裏側のブラジルの、とても辺鄙な岬の突堤を目指す。現地の人に訊いても「行ったことはないけど、何もないところですよ」と言われるような場所である。彼が何故そんなとんでもないところを旅の最終目的地に選んだのかは、ドラマの終盤まで却々明らかにされない。
ハルのほうの旅は、いなくなった父親の荷物をひっくり返していたら、NYの写真(父親と誰かが写っている)と、レコードやギターなど自分が聞いたこともない父親像を語るものが出てきて、それに惹かれ、それを手がかりにNYを訪れる。
2人の旅は最後まで交差しない。ブラジルとNYであるから当然である。しかし、微妙にシンクロする。
2人とも期せずして現地でガイド役の現地人と知り合う。ブラジルのほうはプロの旅行ガイド(飯塚清秀マルコス)、NYのほうは24歳の学生でバレリーナでガイドで詩人のデイジー(長渕文音)。
ハルはデイジーの導きでNYとビートニクスを巡る旅を始める。
僕はこのドラマで初めてビートニクという言葉の由来を知った。そして、ケルアックやギンズバーグなどの名前は知っていたけど、ビートニクというのは主に文学の運動であったと思っていて、それがもっとジャンルに囚われず広いものであり、ウッドストック音楽祭にまで繋がっているということを、このドラマで初めて知った。
30年前、ハルの父親は、写真に写っている恐らく親友と思われる男と一緒に、ビートニクスの足跡を追う旅をしていた。ハルはデイジーと一緒にそれを追体験する。そして、それはデイジーにとっても両親の出会いと結婚を追体験する旅であった。
そこでビートニクスとは何であったのかが次第に浮き出てくる。僕はこのドラマを見て、佐野元春が一旦音楽活動を休止して渡米したときに、一体何を求めていたのかが初めて解った。
ロードムービーというのは次から次へと舞台が変わって、下手すると平板に流れてしまう構成である。そこにどのような山を積み谷を削るのか、それはまるで粘土細工みたいな作業なのだなと、このドラマを見ていてふと思った。
そして、小説であれ映画であれ、ドラマを作るという作業は実は描いていない部分をどれだけ想像させることができるかという、極めて矛盾した作業なのだなという気がした。
インタビューに応えて堤監督が言っている。
「コヨーテ、海へ」はビートニクスを追っていく旅という点で、一見幅の狭そうな個人ムービーのように見えるんですが、実はめちゃくちゃ間口の広い作品になっている。
その通りに撮れていると思った。深い味わいがある。そして全編を通じて、佐野元春の歌がちゃんとドラマに根づいているところがすごいと思った。
片言の日本語で飄々と良いことを言う飯塚清秀マルコスがとても印象深かった。
年の初めに見るにふさわしいドラマであったのではないだろうか。
BEAT GOES ON!
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