『数学の秘密の本棚』イアン・スチュアート(書評)
【1月21日特記】 数学書である。と言うより、数学パズル、クイズの宝庫である。帯には「この本棚には、数学のスリルと驚きがいっぱい詰まっている!!」と書いてある。
中学で習うピタゴラスの定理が載っているかと思えば350年かかってやっと証明されたフェルマーの最終定理も載っている。4色あればどんな地図でも塗り分けられるという四色定理や、『博士の愛した数式』でも取り上げられたオイラーの公式に触れているかと思えば、合コンの席でやったら受けそうなパズルや手品まで披露されている。
帯には続けて「どこから読んでも面白い、最高の数学書」と書いてある。しかし、このどこから読んでも面白いというのが、この本の唯一の弱点であるとも言える。つまり、構成がバラバラで少し散漫な印象を受けるということだ。
もちろん、山ほどたくさんの問題を、並べ方を充分考慮した上で掲載しているので、それなりに流れや繋がりはある。しかし、僕はこれらがもっと有機的に絡まって、全体を貫く1つの大きな流れを形成しているような書物が好きなのである。
それは何かと言えば、例えば上述の『博士の愛した数式』のようなある種の数学小説なのかもしれない。
ただ、掲載されている個別の問題はどれも却々興味をそらさないものであることも事実ではある。それで満足できないということは、僕は本物の数学好きではないのかな、という気もしないではない。
ま、いずれにしても、これは堅苦しい教科書でもない代わりに、読み始めたらやめられなくなるストーリーでもない。所詮軽い暇つぶしなのである。
しかし、それを読んでいると、不意に自分の携帯音楽プレイヤをシャッフル再生で聴いているときに平均何曲目で同じ曲がでてくるかというようなことが解って、ついつい膝を打ってしまう。数学というものはどこかで実生活との接点を持っているのである。だから面白い。だから飽きない。
理解できないものばかりを並べる愚は犯していないが、しかし、全部読んでも多分全部は理解できないだろう。そして、理解できたものもすぐに忘れてしまうのではないかな。そういう訳で、この本はきっと生涯にわたって繰り返し読めるだろう。
多分著者もそういうことを考えていたのではないかと思う。これはそういう読み物である。
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