『ランウェイ☆ビート』試写会
【12月7日特記】 映画『ランウェイ☆ビート』の試写会に行ってきた。しかし、関係者向けの試写会とは言え公開は来年の3月19日である。いくらなんでも早すぎやしないか?
ま、それは措いといて、実は一緒に観に行った人はボロカスに貶していたのだが、僕は正直却々悪くない映画だと思った。監督は大谷健太郎、原作は原田マハがケータイ小説として書き下ろしたものである。
タイトルの「ランウェイ」はファッション・ショーでモデルが歩く花道のこと。ビートには主人公の名前・溝呂木美糸(みぞろぎビート)が掛けてある。名前の漢字が裁縫の縁語になっているところが良い。
高校生のビート(瀬戸康史)は祖父が街のテーラー、父が元は高名なデザイナーであり今はアパレル会社の経営者という血筋の生まれで、小さい頃からミシンを使って洋服作りに馴染んできた。
そのビートが幼なじみのきらら(水野絵梨奈)の入院先である東京に転校するために、何年も離れて暮らしていた父・隼人(田辺誠一)のマンションに引っ越してきた。
ビートが通うことになった都立月島高校には人気モデルである美姫(桐谷美玲)、もんじゃ屋の娘で夜はクラブで DJ をやっている杏奈(IMALU)、2年のひきこもりの後ようやく高校に復帰してからも皆に苛められがちではあるが、実は建築とコンピュータに深い知識を持つワンダ(田中圭)、そして商店街の床屋の娘・芽衣(桜庭ななみ)らのクラスメートがいる。
この5人を中心とした群像劇が、主に芽衣の視点で語られる。
こういう設定をすると5人にそれぞれ特殊な能力を割り振って、それを起点にストーリーを推し進めてしまいがちである。事実このドラマでもデザイナーの卵と人気モデルと DJ と CAD使いがいることが展開の鍵になっている。しかし、そんな中に特段何の特技も才能もない、フツーの女の子である芽衣を入れ込んであるのが大変上手い設定だと思った。
そして、先に最後の部分に触れてしまうと、途中の「信じる気持ちがあれば自分は変えられるんだ」みたいな台詞を受けてはいながら、決して皆が皆自分の信じる道に進んでモノになったという終わり方をしていないのが偉いと思う。そういうところにリアリティがあり、決して青少年に無責任な夢を与えようとはしていないのである。
で、まあ、話は青春ドラマである。学園祭でファッション・ショーをやろうとする高校生たちと、それに対する障害や妨害を描いた物語である。なんだそれバカバカしいと思う向きもあるだろうが、逆に僕なんかは自分の高校大学時代の学園祭をめぐるいざこざや達成感が甦ってきた。
青春ってそういうもんだったのではないか?
ドラマは非常にテンポが良いし、挿入される音楽についてもタイミング、選曲ともに素晴らしいと思う。そして、何よりも思ったのはカメラの技巧の見事さである。寄ったり引いたり回ったりクレーンで吊ったり、細かいカット割りできちんとデザインされた、非常に動きのある構図なのである。
僕がそういう指摘をすると、一緒に観に行ったボロカス氏は「そんなもの見てない」と言ってたけど、そういう綺麗な画が展開するって、やっぱり映画の醍醐味だと思う。
暫く連絡がつかなくなっていたビートが芽衣に遭遇する河岸のシーンの、2人が出たり入ったりする動きの印象的な画。そして、ファッション・ショーのバックステージでの同じ2人を捉えたハンディカメラの揺れる画。──ああ、この揺れはわざとなんだ、と思って、なんか不思議に納得してしまった。
撮影は福本淳、脚本は『ある朝スウプは』や『ソラニン』の高橋泉である。
わりと茶番っぽい話かもしれないが、画も本も、映画のことをちゃんと解ったプロが撮った作品という気がすごくした。出演しているのは僕にとってはあまり馴染みのない若手俳優ばっかりだったが、主演の瀬戸、桜庭ともに好感の持てる演技だったと思う。
大ヒットはしないかもしれない。しかし、そこそこの評価は得られる作品なのではないだろうか。
惜しむらくは、クラスメートにひとりぐらいデブでブスの女の子を入れておけば、もっとリアリティが強まっただろうにと思う。
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