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Sunday, November 21, 2010

『秘密』

【11月21日特記】 昼間 WOWOW で放送していた映画『秘密』を録画して夜に夫婦で観た。

原作は刊行間もないころ会社の後輩に勧められて読んだ。筋自体は良く考えられてひねりも効いているのだが、どうも登場人物やストーリーの背後にそれを書いている作家の影が透けて見えて仕方がない小説である。

人物は自分で立ち上がって動き出さずに作家に喋らされている感があり、かつ、ともかくストーリーを進めたり辻褄を合わせたりするために人や台詞が踊っている感があった。そういう文章のぎこちなさにげっそりして、以来何年も僕は東野圭吾の本は手に取らなかったという曰く付きの小説である。

ところが、今回映画化されたものを見ると、非常に面白い。

例によって読んだ本も観た映画も見事に内容を忘れてしまう僕のことである。今回も「ああ、ひと言で映画化と言っても、今回は娘の身体に母親が憑依するという設定だけ借りて、大胆に原作を書き換えている。これは見事な脚本だ」などと思いながら観ていたのだが、見終わってから念のために調べてみたら、なんと概ね原作通りだというので2度びっくりした。

滝田洋二郎と言えば一昨年以来完全に『おくりびと』のイメージが固まってしまったが、僕は彼が一躍にして名を売った『コミック雑誌なんかいらない!』(1986年)から見ていて、ずっとそのイメージが強かった。その後、彼の監督作品を6本観て来たが、僕にとってはずっと、ある意味でどこかとんがった映画を作る人であった。

ところが8本目として『おくりびと』を観たときに、「この人はいつからこういうテーストのものを志向するようになったのだろう」とちょっと不思議な気がしたのである。そして今回1999年制作のこの映画を見て、「なるほど、この線だったのか」「こういう引き出しは前からあったんだ」と腑に落ちた。

『おくりびと』が海外で受けたのであれば、この『秘密』も一緒に売り出せば買い手がつくのではないだろうか。

ストーリーを書いておこう。母と娘が乗っていたバスが谷底に転落して、母の直子(岸本加世子)は死に、娘の藻奈美(広末涼子)は生き残った──と思われたのだが、実は藻奈美の肉体には直子の魂が憑依していた。

夫の平介(小林薫)は、外側は若い女性でありかつ血を分けた娘でありながら、内面は長年連れ添った最愛の妻である藻奈美に対して、父としてよりも夫としての強い感情に身を焦がすのであった──とまあ、そんな話である。そういう存在に対する性欲とかセックスとかいう微妙な線も扱っている。

原作では事故にあったとき藻奈美は小学生という設定であったらしいが(読んだくせに「らしい」などと書くのも情けないが)、映画では女子高生で、このくらい女としての成熟度があったほうが映画としては手っ取り早く説得力があって良い。

見ながら妻に「確かこの映画で広末はいくつか賞をもらったはず」と言ったら、「広末よりも小林薫がもらっておかしくない」と言う。確かに僕もそう思う。悩み苦しむ中年男を、本当に「らしく」、かつコミカルに、ペーソスたっぷりに演じている。

映画になったこの作品では、背後に監督の姿も、脚本家の姿も透けて見えたりはしない。出演している俳優の存在すら意識させず、設定された場面の中で登場人物が勝手に歩き出してストーリーを紡いでいる。それが良い脚本、良い映画である。

ちなみに、ネットで色々調べてみると、この映画の公開時には「直子が選んだ生き方が理解できない」「それが本当の愛なのか」などと割合物議を醸しもしたみたいである。

僕ら夫婦はあまりそういう感じでは見なかった。それしか生きていく術はないではないか、というのが2人に共通した感じ方だった。

まあ、でも、そんな風に議論が沸き起こったり、見終わった後もいろいろ考えさせたりするのも良い映画に共通の現象であると思う。

斉藤ひろしの脚本が見事だったと思う。滝田作品としては、僕は『おくりびと』よりもこちらのほうが好きだ。

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