『未来型サバイバル音楽論』津田大介+牧村憲一(書評)
【11月22日特記】 これは却々の良書である。音楽ビジネスの歴史書としても、現状分析としても、そしてその打開策の提言としても──。何故なら、そういうことがちゃんと解っていて、できる人が書いているからである。
津田大介氏と言えば今や twitter を代表する人物というイメージが強いが、この人は元々音楽系のライターであり、そこから著作権やIT関連にフィールドを広げて行った人である。
単なるリスナーとして積み重ねた経験に物書きとしての知見を重ね、音楽については依然として深い造詣を保持している。いや、と言うよりも、この本を読んで改めて「ああ、この人は音楽にこんなに詳しい人だったのか」と気づかされるのである。
そして、牧村憲一という人は、ユイ音楽工房を皮切りに名だたる音楽出版社やレーベルの設立運営に参画し、フォークからテクノ、渋谷系までさまざまな音楽状況に関わり続けてきた人である。何と言っても、今日に至るまで常に音楽の最前線にいることに驚かされる。
1973年生まれの津田大介氏と1946年生まれの牧村憲一氏という、世代的にはかなりズレのある2人が、音楽ビジネスに対して非常に近い感性で語り合っているのが面白く、また、だからこそ説得力がある。
第1、3、5章が2人の対談、2章で牧村氏がレーベルの歴史を整理し、4章では津田氏が音楽ビジネスの現状を分析するという構成も非常に読みやすく、理解しやすい章立てになっている。
そして、音楽関係者が往々にして語りがちな「…だからCDが売れない」みたいな愚痴のオンパレードには堕ちずに、程よい現実肯定と揺るぎない理想追求が楽観的に綯い交ぜになっているところが良いと思うのである。
この本で2人が提案している「一人1レーベル」というのは決してひとりっきりで全部やれというのではなくて、意識の高い人たちが集まって創り上げて行こうということらしい。まさにその意識の高い人間のうちの2人がこの本の著者なのだ。
本文最後のページで津田氏が「これからはいい時代になりますよ」と言い、牧村氏が「音楽は時間をかけて、ひょっとすると言葉と同じものになるかもしれません」と言うあたりに、なんか音楽の可能性を感じてしまうのである。
音楽にとって本当に良い時代が訪れつつあるような気がする。
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