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Monday, November 22, 2010

『有村ちさとによると世界は』平山瑞穂(書評)

【11月22日特記】 本屋で手に取るまでは全然知らない作家の聞いたこともない小説だった。ただ、このタイトルである。

これは誰が読んでもジョン・アーヴィングの『ガープの世界』(The World According To Garp)を踏まえているのは明らかではないか(もっともアーヴィングを知らない人がそう思う訳もないが)。そういう作家なら信頼できる──そう閃いてレジに直行した。

読んでみたら果たしてなんと達者な書き手であることか。なんと豊かな表現力であることか。すっかりファンになってしまった。

タイトル通り有村ちさとを語り手とする短編連作である。4つのパートには「章」という言葉を宛てずに「ハイパー・プロトコル Ver.1.0~4.0」という表記を採っている。このプロトコルという単語を持ってきたところが絶妙であると思う。

これはちさとが生きて行くための言わば「手順」や「とりきめ」を記した物語なのである。「外交儀礼」という意味もある。

日本ではもっぱらコンピュータ用語として使われているところなど、生真面目OLと規定された主人公に如何にもふさわしい言葉選びではないか。そして、ただのプロトコルではなく、ハイパーという接頭語を冠しているところにたくさんの解釈の余地があり、それがまた楽しい。

最初のハイパー・プロトコルはちさとの父・騏一郎が家族を捨ててアメリカを放浪しているときの話。ホラ吹き騏一郎とブランドン将軍の2人旅だが、このブランドン将軍の姿は実は騏一郎にしか見えていない。

2つめの話はちさとの会社の「できる」先輩・村瀬瑛子の話。会社では女性総合職の出世頭だが、家では甲斐性なしの旦那とは離婚してしまい、一人息子の面倒も満足に見られなくて、いろんな意味でヨレヨレになってしまう日もある。

3つ目はちさとの妹・ももかの話。怠け者で身勝手で、優等生の姉に何かと反発してさらに姉に迷惑をかける。そのももかの小学生時代の事件と、売れないミュージシャンと同棲を始めた今のももかの話が交錯する。

そして4つ目が有村ちさと自身による彼女の恋の話。

それぞれの章の副題が秀逸である。順に「青い草の国へ」「オズのおまわりさん」「おんれいの復習」「前世で逢えたら」──ね、なんか魅かれません? 不思議なタイトルだが、読めばストンと落ちてくる。

人物の作り方も話の持って行き方も抜群に上手い作家である。そして、アメリカの話を書くとアメリカの、日本の下町の話を書くと日本の匂いがしてくる。作品全体にふくよかなうねりがある。なーんか良い雰囲気の小説なのである。読み終わってしっとりと心が落ち着いてくる。

この有村ちさとを中心に据えた『プロトコル』という長編もあるらしい。そうか、それでこの周辺の物語はハイパーなのか、と納得しながら、その長編も読んでみようという気になっている。有村ちさとによると世界はなかなか捨てたもんじゃないのである。

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