映画『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』
【11月8日特記】 映画『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』を観てきた。見てよ、この軽~いタイトル(笑)
脚本を担当した放送作家アサダアツシと思われる @slantsense が自ら twitter で呟いたところによると、
「NO泣かせ! NO癒し! NO自分探し! NO手料理! NO動物! NO病死! NOタイアップ曲! NOテレビ局! NO香川照之!」…今の日本映画で当たり前の要素が何ひとつ無い、これまでなかったジャンルの映画の脚本を書きました。
となるわけだが、なるほどさすが脚本家自らが語るだけのことはある。まさにその通りの映画である。監督は豊島圭介。原作は北尾トロのエッセイ。
泣ける映画の類が好きな人はこれを観てがっくりするか怒り出すかだろう。このクールで痛快な脚本を「斜に構えた」などと評する人もいるだろう。しかし、現実ってこんなもんじゃないか、と監督も脚本家も言っているわけで、まさに僕もそう思う。
このセンスこそがこの映画のキモであり、評価の分かれ目だろう。
原作はエッセイであるが故にそこにはドラマがない。アサダアツシ自身もパンフにこう書いている。
これをそのまま映画にすると「面白裁判10本立て」みたいなオムニバス映画になってしまう。
どうやってドラマにするかに汲々として終わってしまっても仕方がないところを、よくこういうテーストに引っ張り込んだと思う。しかも主演がバナナマン設楽っちゅう発想が秀逸である。
主人公は売れない放送作家・南波タモツ(設楽統)。これまた怪しげな美人映画プロデューサ須藤(鈴木砂羽)から“愛と感動の裁判ドラマ”を書くように言われて、取材のために裁判所に通うようになる。
そこで傍聴マニアの西村(螢雪次朗)、谷川(村上航)、永田(尾上寛之)、美人の鬼検事マリリンこと長谷部真理(片瀬那奈)らと出会う。
画面では次から次へと突込みどころ満載の裁判シーンが展開される。しかし、映画は観客にツッコミを入れさせるのではなく、設楽が自らツッコミを入れる。これが最初はなんだかなあと思ったのだが、見ているとこのペースにも慣れてくる。
で、そういう裁判の羅列が「面白裁判10本立て」にならないように、脚本家は上手に筋を流しこんでくる。途切れることなく程良く。でも、決して感動を与えたりしようとはしない。ちょこちょこ笑える。でも、笑いの滝つぼに突き落とそうとまでは思っていない。
ありがちな展開は悉く嫌って、見事に肩透かしを食らわせてくれる。軽快である。洒脱である。それでいて読後感はふんわりとある。好きだなあ、こういうの。ある意味、日本映画史に残る作品と言って良いと思う。
必然的に室内(裁判所内)のシーンが多くなるのだが、飽きさせない。それは単にロケのシーンを巧みに挟み込んでいるからというものでもないように思う。
大ヒットもしないだろうし、大きな賞も獲らないだろう。しかし、これはかなりバランスのとれた良い作品ではないだろうか。
これこそまさに日本には欠けているセンスなのである。こういうのも良いではないか。
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