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Sunday, October 31, 2010

ドラマW『なぜ君は絶望と闘えたのか』

【10月31日特記】 録画しておいたドラマW『なぜ君は絶望と闘えたのか』前後編を観た。

ドラマWと言えば2時間枠の単発ものというのが決まりであったのに、近年 WOWOW は30分枠の連続ものや今回のような2時間×2の前後編など、いろんな形に広げつつあるのだが、僕としては本当はやめてほしい。2時間単発ものというのが僕の生活リズムの中で一番見やすい形だから。

今回も、だから、見始めるまでに覚悟が要ったし、見始めてからも少ししんどかった。

なにしろテーマが重いのでドラマも重くなる。

1999年に光市母子殺害事件というのがあった。18歳の少年が見ず知らずの家庭を訪れ、その家の若い妻と幼い子供を殺した事件だ。例によって僕はほとんど忘れていたが、妻ははっきり覚えていた。

そして、この事件を追ったルポルタージュとして門田隆将による『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』という著作があったらしい。これはその本を原作としたフィクションである。さすがに僕も観ているうちに少し思い出してきた。随分世間を騒がせた事件であり公判であった。

現実の事件に対する子細な記憶がないのではっきりは言えないが、現実の事件、およびそのルポルタージュを、どこまでも事実の忠実に描こうとしたものではなく、固有名詞はもとより設定などもある程度変えてあるようだ。

ドラマは妻子の命を奪われた町田道彦(眞島秀和)と、彼を支援しながら事件と裁判を追い続ける週刊誌記者・北川慎一(江口洋介)の交流と、裁判そのものの進行をメインに進められる。

町田の怒りは、まず、理不尽に妻子を奪われたという怒りである。次に、被害者の遺族が全く守られていないのに対して、未成年の犯人は少年法によって守られていることが理解できないという憤りである。そして彼は、妻子の命を奪った犯人は自らの死を以て償うべきであると、司法と世間に訴え続ける。

大きなテーマである。そして、実際にこの事件を機に、被害者の遺族を守り、権利を保護するいくつかの法律ができている。

僕は確かに裁判が過去の判例に縛られてすぎているということ、「2人殺しただけなら無期懲役、3人以上なら死刑」という“相場”があること、そして、過酷な境遇で育ったという理由で情状酌量されることなどについては、主人公の町田と同じ違和感を覚えた。

しかし、一方で、町田が被害者の遺影を持ち込もうとして裁判所に却下されるエピソードについては、登場人物のひとりが語っていた「裁判官も人間なのだから、遺影などを見せられると判断に狂いが生ずる」という考え方に同調した。

そう、この手のドラマについては、このように共感がまだらであることが大事なのだと思った。まだらでなく一色に塗りつぶされているときはどこかが危ない。まだらであることがこれから先も考え続ける契機になるのだと思った。

そういう意味ではちゃんとバランスの取れた脚本である。そして、前後編を通して観て、この8年にも渡る長い話を無駄なくまとめた良い脚本だったと改めて思った。ちりばめておいた小さなエピソードを後できっちり回収する手際の良さもある。そして、エピソードの選び方が適切である。

町田の理解ある上司・岡本(佐藤B作)、北川の部下の熱血記者・山下真紀子(ミムラ)、北川の上司である却々味のある編集長・小口(高橋克実)、北川の学生時代の友だちで今はTV局の報道ディレクタ東野(小澤征悦)など、人物の配置も、それぞれの人物の描き方も結構良い。

脚本は長谷川康夫と吉本昌弘の両ベテランが当たっている。

事件と裁判一辺倒だった前編と比べて、後編になると、北川と彼の昔の恋人の女医・有紀(木村多江)とのエピソードが少し比重を増してくる。硬派のドキュメンタリ・ドラマにこういう要素が入り込んでくることを嫌がる視聴者もいるだろうが、いや、しかし、これがないと重くて重くて見ていられない。

また、この2人の話が出口のないこの法廷闘争の裏側の話として、救いになっているとも言える。

監督の石橋冠という人は、WOWOW のホームページでは随分勿体をつけた扱いになっていたが、残念ながら僕は初耳だった。そんなに凄いという印象はどこにもなかったけれど、手堅くしっかりとまとまっていたのは確かである。

犯人の顔がほとんど認識出来るような形で映らないという演出はなかなかのアイデアだったと思う。

見終わって夫婦でいろんなことを語り合った。上でも書いたように、主人公に対しての全面的な共感はない。同時に全面的な反発もない。これこれこうであると即座に断定する自信もない。いろいろ考えて、いろいろ話した。

──我々にそういう会話をさせたということは、取りも直さずこのドラマが制作者たちの意図通りのものであったという証拠なのだろう。この手のドラマが持つ危ない線をうまくすり抜けて、いい作品になったと思う。


【11月1日追記】 業界紙で知ったのだが、このドラマはギャラクシー賞テレビ部門の9月度月間賞を受賞したらしい。

受賞理由を引用してみたい。

犯罪被害者遺族の青年が、悲しみから立ち直り、司法を変えるまでを丹念に描く。当事者を英雄視せず、家族を殺された喪失感と不安定な感情を綴る。一方で様々な立場の意見を盛り込み、死刑の是非をみる者へ問いかけた。

「司法を変えるまで」というのは過剰表現だと思うが、それ以外は巧くまとめた評になっていると思う。WOWOW では来年1月に再放送するらしい。

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