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Sunday, October 17, 2010

映画『死刑台のエレベーター』

【10月17日特記】 映画『死刑台のエレベーター』を観てきた。

1950年代に作られた外国映画、しかも、ものすごく有名な作品(「ヌーヴェルヴァーグの鬼才」ルイ・マル監督の「鮮烈なデビュー作にして最高傑作」、マイルス・デイヴィスが即興で作った音楽も有名)のリメイクである。

オリジナルではモーリス・ロネとジャンヌ・モローが演じた役を、ここでは阿部寛と吉瀬美智子が演じている。阿部が吉瀬と共謀して、大企業の会長であり吉瀬の夫である津川雅彦を殺すのだが、現場から逃げる途中でエレベータに閉じ込められてしまうというストーリーだ。

僕はオリジナル版は観ていない。映画に限ってはあまり「古典」に興味が湧かないので。だから、この映画は緒方明監督でなければ決して観なかったと思う。結果は観て大正解だった。

緒方明監督という人はやっぱりすごい人だと思う。『独立少年合唱団』、『いつか読書する日』、『のんちゃんのり弁』、そしてこの『死刑台のエレベーター』と長編デビュー以来の4作を並べてみると、その多才ぶりが判ると思う。

僕は『独立少年合唱団』は見逃したのだが、『いつか読書する日』で完全にノックアウトを食らった。設定も台詞も映像も圧倒的だった。そして、この映画は2005年のキネ旬ベストテンの第3位にランクされた。僕も「まともな人ならこれをベストテンに投票しないなんてことはないだろう」と思った。

しかし、それに続く『のんちゃんのり弁』が2009年の第11位に入ったのは驚いた。これはシングルマザーが弁当屋を始める話である。そんな見せ場のない映画でも審査員たちは票を投じずにはいられなかったのである。

で、今度は世界的/歴史的名作のリメイクである。

パンフを読むとオリジナル版にかなり忠実に、と言うか、オリジナル版に相当の敬意を表して作っているらしい。だから、冒頭の吉瀬美智子と阿部寛のやり取りを始め、少し歯の浮くような台詞やシーンもないではない。だが、そういうのが恐らくオリジナル版のムードを忠実に引き継いでいるのだろう。

ただし、50年前のパリを現代の横浜に移す限りはかなり細かく手を入れているはずである。それが証拠に観ていてほとんど違和感がない。オリジナルの邦画だと言われても、原作を知らなければそれで通ってしまうだろう。

電源を切られてエレベータに一晩閉じ込められるなんてことは現代日本のハイテクビルではありえないことだが、それを歴史的建造物である古いビルの、恐らくテナント全員と顔見知りである守衛がひとりで管理している、時計型の階数表示の付いたクラシックなエレベータにしたことなどは、そういう工夫の最たるものと言えるだろう。

絶対持っているはずの携帯をうっかり車に置いてきてしまったという画を入れてあるのも抜かりない。玉山鉄二、北川景子、平泉成、りょうらの脇役の職業等の設定も作り直しているはずである。唯一引っかかるのは、如何に急いでいたとは言え、現代の日本でキーをさしたまま車を離れる奴はいない(しかも、超高級外車で、おまけにオープンカーである)ということくらいか。

ともかく観ていて面白い。そして無常感。

展開に無駄がない。少し粒子を荒くした画面に雰囲気がある。そして、どうやらオリジナル版の構図をなぞったシーンもあるようだが、あちこちに良い画が満載である。見た目には判らないところでかなりCGも使ったらしい。

玉山鉄二のチンピラ警官が抜群に巧い。阿部寛が決してスーパーヒーローでないところが良い。そして何よりも、吉瀬美智子がとてもきれいである(だから多用したクロースアップが映える)。

パンフレットで脚本家について一切言及していないのは何故だろう? 大変巧い本だと思う。木田薫子という人。検索してもあまり経歴は出てこないが、OV の監督などもやってきた人のようだ。

撮影は鍋島淳裕。この人は近作ではもうすぐ公開の(僕は試写会で既に観たが)『雷桜』がある。そう言えば、一作日観たばかりの『七瀬ふたたび』のプロデューサである小椋悟(小椋事務所)がこの映画も手がけている。

オリジナル版を知らなければ楽しめないような作品では決してない。それだけに、逆にオリジナル版を見たくてたまらなくなってきた。──そういう映画って、間違いなく良い映画だと言えるのではないだろうか。

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