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Sunday, October 03, 2010

映画『十三人の刺客』

【10月3日特記】 映画『十三人の刺客』を観てきた。三池崇史監督。

僕は基本的に現代劇が好きで時代劇にはあまり手を出さない。しかし、この映画は辛気くさい時代劇なんぞと言うよりもむしろ「チャンバラ」である。しかも、残忍かつ、壮絶な。

なんと冒頭から内野聖陽の切腹シーンである。さすがに刃物がお腹を切り裂くリアルな画がある訳ではなく、内野の顔のアップがほとんどなのだが、この激烈な感じが映画の初めから終わりまで貫かれる。

ここに絵に書いたような残虐な殿様がいる。明石藩主・松平斉韶(稲垣吾郎)である。これが将軍の腹違いの弟で次期老中への就任が決まっている。

こんな奴を老中にしたら大変なことになる。しかし、現在の老中・土井大炊頭利位(平幹二朗)としては、将軍の意向に逆らって将軍の弟に刃を向ける訳には行かない。そこで部下の目付・島田新左衛門(役所広司)を密かに呼びよせて斉韶の暗殺を命じる。

そのシーンの前後に、斉韶の数々の悪行の限りが描かれる。そこに、老中・土井大炊に、新左衛門に、そして見ている観客にまで「こんな殿様を生かしておいてはいけない。叩っ切ってやらなければ」と思わせる仕掛けがある。

いくらなんでもこんな極悪非道の藩主がいるか?と思わせるくらいの徹底ぶりで、それが、でも、観る者の気持ちまで高めてくれる。いやいや、なんと解りやすい勧善懲悪か。

稲垣吾郎もここまでひどい役をやったことはなかったのではないか。どこまで行っても狂ってる。死ぬ間際になっても今までに増して仰天するほどふざけた台詞を吐く。単純な仕掛けではあるが、新左衛門らの怒りを買い、観客の憤りを呼び覚ます見事な脚本であり演技であった。

そして、その斉韶に仕える鬼頭半兵衛(市村正親)。彼と新左衛門は今で言うなら学生時代からのライバル。入社後の出世レースでは新左衛門に水をあけられている。そして、斉韶が狂ってることは重々承知しているが、それでも命を賭けて主君を守るのが侍の務め。

──こういう人物を新左衛門の対極に配する辺りも見事な設定である。

新左衛門は参勤交代途上の斉韶を狙うことにする。自らの手下以外にもいろいろな伝手を頼って刺客を集める。ところが、タイトルは『十三人の』なのに十二人しか集まらないところで計画は始まる。もうひとりはどこで現れるのか──この辺の間の持たせ方も巧い。

聞けば1963年に工藤栄一監督が撮った同名映画のリメイクらしい。僕は時代劇も昔の映画もあまり見ないので、この三池作品が何を踏まえているとか誰を意識しているとか、そういうことはよく分からない。オリジナル作品とどこが違うのかという点についてもパンフから得た知識以外は持ちあわせていない。

ま、そんなことはどうでも良くて、ともかく面白いのである。観客に息をもつかせない。

天願大介の脚本は、無駄に人物の背景を説明するための挿話や回想を入れ込まず、ひたすら彼らの現在だけを描く。

新左衛門ならばどういう経緯で彼は独り身なのか、新左衛門の甥の新六郎(山田孝之)はどうして酒と博打にうつつを抜かしているのか、いや、そもそも斉韶は何があっていつからこんな残忍になったのか──そういうことが一切説明されない。ただ、今の彼らがやり取りする台詞の断片から僕ら観客は想像するしかないのである。

──その手法はとても良かったと思う。もし、下手に人物背景を書き込もうとしたら、この作品はもっとかったるいものに仕上がっただろう。

(ところで、今回パンフを読んで初めて知ったのだが、天願大介って今村昌平の息子だったのだそうな。ま、僕は今村昌平監督の映画もほとんど見たことないので何の感慨もないのだが・・・。)

で、ともかくこの13人が明石藩300人の軍勢を相手に斬って斬って斬りまくる長い長いシーンが圧巻である。もちろん、斬るだけではなくて、弓矢やら石ころやらいろんな武器が駆使されるし、その上で待ち伏せした場所にいろんな大きな仕掛けも仕込んであり、観ている者を飽きさせない。

でもって、素人が見てもこんな撮影途轍もなく大変だったろうなと想像がつく大集団アクション、上下左右、手前、奥から人、物、人が入り乱れての想像を絶する殺陣である。同じ三池監督の『クローズZERO II』を思い出した。本当にこういう難しいことに対して挑むのが好きな監督なのである。そして、それを成功させる監督なのである。

さて、ここで13人の刺客のキャラと配役を紹介しておこうと思ったのであるが、やっぱりやめておく。これは知らずに見たほうがよっぽど楽しいと思うから。まあ、あまり個性が描かれないまま死んでしまう役も3人ほどいるのだが、全般によくここまで個性を描き分けたなあと感心してしまった。

リメイクとか何とか全然意識しなくても充分楽しめる。こりゃもう、とんでもない活劇である。さて、最後まで生き延びるのは誰か? ある人物の表情のアップでこの映画は終わる。

余談だが、斬られる寸前の半兵衛の顔にハエがたかったのは凄かったなあ。あれは偶然? それとも何かでハエを呼び寄せた? CGではないよね? 牛はCG丸分かりだったけど。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

アロハ坊主の日がな一日

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Comments

私の記憶では、蠅は2度出てきた。最初は仕込んだと思ったが、2度目でCGであると結論づけた。2度は、仕込みでも無理でしょう。なお、もし偶然なら、他のシーンでも飛び交っているはず。

Posted by: hikomal | Sunday, October 03, 2010 19:44

> hikomal さん
ハエの件できっと何か書いてこられると思ってましたよw しかし、反応早かったっすねえ。
ああ、2度出てきましたか。気がつきませんでした。で、まあ、冷静に考えたらCGですよね。
それにしても、「そこで半兵衛の顔にハエがとまるわけだ」って、誰が思いついて言い出したんでしょう。良い発想だなあと感心します。

Posted by: yama_eigh | Sunday, October 03, 2010 20:01

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