『「満足」を「感動」に変えるサービス・マインド 』此花あかり(書評)
【9月17日特記】 twitter で知り合った漫画家・此花あかりさんの近著。個人的な知り合いの著書なので、ひょっとしたら少し贔屓目になっているかもしれないが、その点はご容赦いただきたい。
ホスピタリティの専門家である林田正光氏ほかの監修の下に書かれたある種の指南本なので、どうしても少し薬臭い面があるのは仕方がない。でも、僕の場合は「面白かった」というのが読み終えた時の端的な感想だった。
この本は書店のどの棚に並ぶのだろうか? ビジネス書か、漫画か?──多分ビジネス書だろう。しかし、正直言って読む前には、CS(顧客満足度)云々の御託が文章でダラダラ書かれていて、そこにちょこちょこ漫画が挿入されているだけの本だと思い込んでいたのだが、実際はまるで逆だった。
これは初めのページから終わりのページまで全編漫画の本である。そして、各章の「幕間」に、この漫画の主たる登場人物のひとりであるコンサルタント・栗原まゆみの「講座」という形で文章による解説が2~3ページずつ挿入されているのである。
この手の本は往々にして、言わばマニュアル本/啓蒙書としての実用性とマンガ本としてのエンタテインメント性がせめぎ合う構造になるものである。ビジネス・マニュアルの面が強すぎると読んでいてあまり面白くないし、かと言ってマンガが強くなりすぎると論点がぼけてしまう惧れが出てくる。
その点、この本は本当に良いところで巧いバランスを取っている。いや、ご本人の談によると、あちこちと軋轢を生み、喧嘩もしながら描き上げてきたと言うだけあって、全面的に漫画が勝利している(笑)。漫画作品としての独立性が保たれて、それ単独でちゃぁんと面白いのである。
もちろん、漫画家がただ描きたいようにだけ描いたのであれば、それは監修者とも出版社とも喧嘩別れになって終わりのはずだが、そうはならずに、ビジネス書として要請される点は100%実現した上で漫画としての作品性を保っているところがエライと思う。
主人公は木下若葉。とあるショッピングモールの運営会社のアラサー社員。勤続10年生である。その彼女が抜擢されてCS推進のプロジェクト・リーダーに任命され、敏腕コンサルタント・栗原まゆみの教えを受けながら、自らも学び、成長し、そして社業にも貢献して行く物語である。
いろんなタイプの登場人物がうまく描き分けられており、読んでいて飽きない。特に若葉と半同棲している彼氏・藍田陽平との関係がなかなかステキである。
単発で終わるのは惜しい話だと思う。どこかで連載するような展開になってくれると嬉しいのだが。
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