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Tuesday, September 28, 2010

映画『恋愛戯曲』

【9月28日特記】 映画『恋愛戯曲 私と恋におちてください』を観てきた。

僕は勝手に映画のために用意された脚本だと思い込んでいたのだが、舞台で好評を博した作品らしい(ちなみに舞台では永作博美や牧瀬里穂が谷山真由美役を演じたのだそうだ)。鴻上脚本・演出の舞台は何本か観てはいるが、この芝居のことは全く知らなかった。

で、「鴻上尚史が一番映像化したかった作品」なのだそうで、だからこそ映画向きにかなり筆も入れたらしい(芝居を見ていないのでどこがどう変わったのかは僕は知らないが)。

いずれにしても、こういう作品は往々にして「なんでこれをわざわざ映画にしたの? 舞台の上でやってたほうが良かったのに」という代物になってしまいがちなのだけれど、その辺のことはさすがに鴻上尚史監督は充分承知しているようで、映画としてのメリットをちゃんと活かした、面白いラブコメに仕上がっていると感じた。

しかし、それにしても、「オムニバスの中の1編」という形を含めれば、鴻上尚史もこの映画が5本目である。こと映画に関しては駆け出しみたいに思っていた僕の認識は、まるで間違っていたと言わなければならない。

主人公は谷山真由美(深田恭子)、売れっ子だが最近やや落ち目の脚本家。関東テレビでピュアハート化粧品の1社提供によるスペシャルドラマの執筆が決まっているのだが、締切りが1週間後に迫っているというのに1行たりとも書けない。

そもそもこの企画自体、関東テレビの営業が勝手に谷山をブッキングしてスポンサーに売り込んだものであり、気難しい上に遅筆で有名なわがまま放題の女流脚本家と組むのを嫌がった制作は、エース級のプロデューサではなく、昨日までビデオの整理をしていたダメ社員・向井(椎名桔平)を制作に異動させて担当にしてしまう。失敗したらトカゲの尻尾切りよろしく向井をどこかに飛ばして終わりにしようという魂胆である。

で、ホテルに缶詰になっている谷山の部屋を向井が訪ねてみると、谷山は向井に対して、自分は恋をしないと恋愛ドラマが書けないので自分と恋に堕ちてくれ、と飛んでもないことを命じる。向井はそんなことを言われても途方に暮れるばかりで、その結果脚本はいつまでたっても書けない。

そこでその辺の事情を掴んだ編成が乗り出してくる。何がなんでも番組表に穴をあける訳には行かないと躍起になった編成は、一方で谷山のもとにイケメン編成マン柳原(塚本高史)を送り込み、他方で代役の脚本家確保に走る。

はあ、テレビ局の営業・制作・編成ってそういう関係だったのか──と思われてしまうと、それはどう考えても間違っている(笑)のだが、しかし、この辺はテレビ局の営業・制作・編成のそれぞれの気質を的確に把握して、非常に面白くデフォルメしていると思う。

特に西村雅彦が演じた古いタイプの営業作法丸出しの営業局長、井上順が演じたなんだか無責任な制作部長、清水美沙が演じた如何にも優秀な官僚タイプの編成部長、そして、中村雅俊が演じた一見優しそうだが決定権を握っているスポンサーの宣伝部長など、いずれも見事な嵌り役であるし、筋運びにも絶妙の面白さがある。

一方、真面目なだけが取り柄の向井だが、さすがに焦って「もっと確実な線を狙って書いてください」と口走ってしまい、谷山に「もの作りに“確実な”ものなんてあるの? あんたほんとに制作の人?」などと一喝されてしまう。そこから先は2人の人間がそれぞれどう成長し、2人の関係がどう変容して行くか、という展開になる。

さすがに鴻上脚本だけあって容易に予想されるような結末には導かず、その前にひと山、ふた山の仕掛けがある。

それと、このドラマのもうひとつの特徴は、3重の入れ子構造になっていること。

まず、谷山真由美と関東テレビのストーリーがあって、その中に谷山が書くドラマの脚本がある。これはシナリオ学校に通って脚本家デビューを夢見る地味な主婦・吉澤とテレビ局のプロデューサの物語で、これが劇中劇として同じく深田・椎名のキャストで演じられる。

さらにややこしいことにはその劇中劇の中に主婦・吉澤が書く台本が出てきて、ここに登場するのがゴージャスな女流作家とプロデューサで、これまた深田・椎名のコンビで演じられるのである。この入れ子の一番内側にあるゴージャスな女流作家のシーンは舞台セット風に、かなりいろんなものを省略したり、逆に装飾を施したりした空間で演じられる。

そこには当然作者のある種の目論見なり企画意図なり解釈なりが込められているのだが、しかし、見ている方からすると明らかに現実離れしてしらけた感じがするだけでなく、なんだか安っぽい感じがしてしまう(制作費少なかったんだろうな、などと下衆の勘繰りも出てくる)。
それが少し残念な感じもした。そういうこともあって、僕はこの第3階層にはうまく入れコメなかった。

まあ、だけどそこは岸田戯曲賞受賞者の脚本である。全般にうまく運んで飽きさせない。そして、見ている者をハッピーにさせてくれる。

そして最後はまるで映画みたいなきれいな終わり方である。いや、映画なんだから当たり前、ではない。これは舞台では絶対にできない手法でなのである。何故なら舞台ではカメラが寄ることができないから(と言っても、そんなにすごいクロースアップをしているわけでもないけれど)。

この辺の映画の特性をちゃーんと分かって織り込んで、本当に古き良き時代の映画みたいなエンディング。ああ、楽しかった。そして、明るい気持ちで映画館の外に歩き出すことになる。

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