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Friday, September 17, 2010

『ゲゲゲの女房』試写会

【9月17日特記】 映画『ゲゲゲの女房』の試写会に行ってきた。

最初に断っておくと、僕は NHK の朝の連続テレビ小説のほうは見ていない(1回も見たことないとまでは言わないが)。だから、あれと比べてどう、という評価はほとんど書けないので悪しからず。

で、映画では水木しげる役は宮藤官九郎である。向井理とどちらがいい男かとなると言うまでもないが、しかし、どちらが水木しげるっぽいかと言えば間違いなく宮藤に軍配が上がるだろう。宮藤官九郎と言えばやはり脚本家としての評価が一番高いが、ここ数年役者としての技量はものすごく上がってきていて、却々捨てたもんじゃないのである。

そして、主人公の女房役は吹石一恵である。この人も結構巧い役者である。NHK の2人と比べてどうかとなると、それはもちろん見る人の趣味の問題なのだが、見終わって思ったことは、この映画はこの2人でなければならなかったんだろうなということ。こういう描き方をするに当たっては、どうしても必要なキャスティングだったのではないだろうか。

映画は布枝(吹石)が外から帰ってくるところから始まる。帰ってきたら父のところに仲人が来ていて、ちょうど帰るところであった。今まで布枝の縁談を悉く断ってきた父が、今回は進めてほしいと言っている。戦後間もない昭和の若い女性はそんな時にひと言も口を挟めず、夕食の時に初めてもう少し細かいことを知る。

相手は武良茂(宮藤)。来年29歳(恐らく数え年だろう)になる布枝より10歳年上で、東京に住んでいて、戦争で片腕をなくしていて、貸本屋用の漫画を書いているが、恩給もあるので生活には不自由していない、と言う。

で、その次のシーンはもうお見合い5日目に結婚して新居に着いたところから始まる。夫がどんな人なのかも判らないところに加えて、新居は一軒家とは言えボロボロで、2階には見知らぬ男が間借りしていて、米櫃にはコメがなくて、家にはお金もない代わりに質札が山ほど出てくる。

生活が安定しているなどというのはとんでもない嘘で、せっせと漫画は書いているものの、人気が出ずにギャラも約束の半分ももらえない。食うにも困り、道端の草を引っこ抜いてきて料理する有り様である。

この辺の新婦・布枝の不安さがよく描けている。

茂が外出した後の静かな家。ああ、昔ひとりで留守番してた時ってこんな感じだったなあ、と思い出してしまった。静かと言っても無音ではないのである。柱時計の音とか、遠くで聞こえる工事の音とか、なにかしら音は鳴っているのだけれど、心象風景としては妙に静かなのである。こういう描き方が巧いなあと感心した。

そして、対照的にひょうひょうとした茂役の宮藤の演技も見事である。自分で言って自分で笑うさまを見て、ああ、こんな人いるよなあ、と思い当たる。腐りかけのバナナ食って踊るシーンなんて、いやあ、よくこんな脚本書いたなあと唸ってしまった。

そして、この不安感を抱えたよそよそしい感じの新婦と、何を考えているのかよく分からない感じの新郎が、一体感のある真の夫婦に昇華して行く姿が本当に瑞々しく描かれている。

映画にはところどころに妖怪が出てきて、遊び心いっぱいのシーンになっている。茂も布枝もともに妖怪が見えるという設定なのだが、これが2人とも眼に見えるものしか信じられないような人間ではないということの巧みな比喩になっている。

そして、水木作品の漫画が時々アニメーションになって動き出すのだが、これは秀逸である。大山慶というアニメーション作家が手がけたとのこと。

監督・鈴木卓爾と撮影・たむらまさきのコンビは、あまり凝った感じもなく淡々と、しかし、瑞々しく、そしてそこはかとなくおかしく2人を描いて行く。そう、これは「あはれ」ではなく「をかし」の世界である。

ただ、ほぼ全編に亙って水木しげるが全然売れなかった時代の極貧生活を描いているので、結構暗くて重苦しいのは確か。とっても良い映画だと思ったけど、これでお客さんは入るのかなあ、と正直それだけが心配である。

もうちょっと弾けて、例えば『茶の味』みたいなエキセントリックなテーストの映画にしてしまう手もあったかな、と思うのだが、これは趣味の分かれるところで、それに多分そんな風にするともっと客の来ない映画になってしまいそうな気はする(笑)

貸本屋のオヤジに扮した鈴木慶一が音楽を手がけている。エンディングのテーマソングなどは、ファンであれば4小節聴いただけで MOONRIDERS と判る曲想で、それでいて如何にもゲゲゲっぽいのが愉しい。

終り頃になって漸く徳井優が何の役だったのか分かって、ありゃりゃ、やられた、と思った(笑)

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

ラムの大通り

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