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Sunday, August 29, 2010

NHK BShi 妖しき文豪怪談『後の日』

【8月29日特記】 8/26(木)に NHK BShi から録画しておいた『後の日』を観た。室生犀星の小説『童子』と『後の日の童子』のドラマ化である。

犀星の小説は、僕は多分1編しか読んでいない。このドラマに惹かれたのは監督・脚本が是枝裕和だったからだ。

肩タイトルからも判るように、物語は幻想譚・怪異譚の類である。犀星の作品はほとんどが「自伝的」と言えるのだそうだが、この作品もそうである。

主人公の作家(加瀬亮)は名前こそ室生犀星ではないが、明らかに犀星を象っている。そして、その作家と妻(中村ゆり)のところへ、1歳で死んだはずの長男・豹太郎が小学校低学年くらいになって(澁谷武尊)現れるのである。

犀星の長男は実際に13ヶ月で亡くなっており、その名前も豹太郎である。そして、この小説/ドラマの中で赤ん坊として出てくる長女の名前も犀星の実の長女と同じ朝子になっている。しかし、この小説が書かれたのは犀星の妻が朝子を妊娠中の時であったというから驚きである。

なんでそんな事情まで知っているかといえば、後述する通り、このドラマに引き続いて解説+メイキング風のドキュメンタリが放送されたからである。

物語はこうだ。

作家夫妻のところへ、ある日突然何年も前に死んだはずの息子が成長した姿で現れる。息子はどこから来たかも憶えていないと言う。しかし、作家も妻もそれが息子であることを疑わない。怖がりも訝りもせず、ただただ息子の帰還を喜び、息子がまたいなくなるのではないかという不安感に苛まれている。

事実息子は「今日はもう帰らなきゃ」と、どこだか分からないどこかへ時々帰って行く。ある日作家が後を追ってみるが結局分からない。

作家夫妻には、自分のせいで息子が死んだのではないかという後ろめたさがある。そして、作家は今まで自分を捨てた母親を憎んできたけれど、ひょっとしたら息子を失った自分と同じくらい母親も苦しんできたのではないかという痛恨の思いにも突き当たる──そんな話である。

そんな話を監督・脚本の是枝裕和が余すところなく画で語っている。撮影は1999年の『ワンダフルライフ』以来、2007年の『歩いても歩いても』まで、カンヌで賞をもらった『誰も知らない』を含めて何度も是枝とコンビを組んできた山崎裕である。

僕は映画というものはやはり画で何かを語ってこそ映画なのであると常々思っているのだが、こういう作品に出会うとますますその思いが強くなる。

この静かな画面がなんと印象的に語ることか! そしてなんと美しいことか!

加瀬亮の前を中村ゆりが(画面に映らずに)横切るシーンがある。その後すぐに中村がフレームインしてきて2ショットになるのだが、最初中村が横切ったときに、その影が加瀬を暗くするのを観てはっとした。

そう、この映画は光と影が非常に強い印象を残す。──逆光とシルエットの多用。強い光と非常にコントラストの強い黒々としたシルエット。そしてモノクロの人物の向こうにある風景の、特に緑の、なんと色濃いことか。

HPにある4枚の静止画を見るだけでも、その一端を充分窺い知ることができるので是非観てみてほしい。

僕はこのコントラストに、生きているものの世界と死んでいるものの世界の対照を見て取った。不思議なことに生きているものが黒く、死んでいるはずのものが明るかったりする。

とてもとても印象的な作品である。

ただ、犀星の小説世界に詳しくなければ少しく分かりにくいのも事実。非常に余韻は深いものの、なんだか解らないうちにドラマが終わってしまったということにもなり兼ねないが、そこがさすがに天下の NHK さんである。上述のドキュメンタリがその後に直結しているのである。

このドキュメンタリの監督は、是枝監督が取材対象になっているので、当然是枝裕和ではない。エンディングのスタッフロールできちんと確認したわけではないのだが、恐らく NHK(エンタープライズを含む)のスタッフによるのだと思う。

これによって作品の理解はかなり進む。併せて観ることをお勧めする。この作品はこの後 NHK オンデマンドで配信するらしい。見て損はない。

なお、この作品の前に『片腕』(川端康成原作/落合正幸監督)、『葉桜と魔笛』(太宰治原作/塚本晋也監督)、『鼻』(芥川龍之介原作/李相日監督)の3作が、4夜連続のシリーズとして組まれていたらしい。全く知らなかった。とても残念である。


【8月31日追記】 1件訂正。ドキュメンタリ・パートは NHK の自社制作ではなかった。こちらもテレビマンユニオンである。

GP が田中直人。P&D は黒田由布子、撮影は松井孝行とある。

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Comments

妖しき文豪怪談全4話、全て観ました。
各監督の余韻を濁すことなく、うまく解説に持っていたと思います。
NHK映像のファンとしては満足でした。

Posted by: tonbi | Monday, August 30, 2010 at 01:35

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