『SR サイタマノラッパー』
【7月18日特記】 映画『SR サイタマノラッパー』の DVD を借りてきて家で観た。
自主映画と見くびってパスしたら、なんと2009年キネ旬ベストテンで堂々第25位にランクされた作品である。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ではグランプリを受賞した。
超低予算、短期間で撮影された作品である。当然1カメで、凝った画作りなんかやってる余裕はない(だから、一つひとつのカットがやたら長い)。そうなると勢い脚本勝負ということになるが、この脚本がよく書けている。
それから、これはヒップホップ/ラップ映画であるので、ラップの出来も映画の重要な要素である。これまた、演者が巧いかどうかは別として、作品としてはよくできている。
脚本とラップ、この2つの掛け算で、この映画の好評は得られたのだと思う。
筋は単純である。サイタマのど田舎のフクヤ市、レコード屋もライブハウスもないそんな土地でラップをやっている3人のラップに対する情熱とちぐはぐな日常を描いたものである。
この3人の職業は、ひとりがブロッコリー農家、もうひとりがおっぱいパブの店員、そして、もうひとりはニートである。なんとも言えないではないか。
最初、出てきたのが SHO-GUN という6人組のラップグループなのだが、当然自主映画なので知ってる顔などひとりもいない訳だ。それで、この6人の群像劇を展開されたら誰が誰だか判らなくなるなあ、と思っていたら、もっぱら描かれるのはその中の3人に絞られている。
この辺の、観てる人に対する整理の仕方が、テクニカルに巧いなあと思った。そして、ラップをやって世界に殴りこみたいという熱い思いが周囲の冷たい目に晒されてどんどん空回りして行く──そんな鬱屈した、情けない、憤懣やるかたない、痛々しい感じが非常によく描かれている。
前述したとおり、長いカットのシーンをカメラは何度も首を振り、人物は行ったり来たり喋ったりラップしたりを繰り返す。この感じがとても良い。
男ばかりの話の中に紅一点あしらわれているのが「千夏」という女なのだが、これが主人公のニート・ラッパー「イック」の高校時代の同級生で、高校を中退して上京し、AV女優をしていたが故郷に戻ってきた、という何とも言えない設定なのが見事としか言いようがない。
そして、細かく書いてしまうと元も子もなくなってしまうので書かないが、ラストのラップの応酬がとても良い。真摯な感じで胸に刺さってくる。
んで、おっ、それで終わるか、っていう終わり方がまた良い。そう、そんな感じ、っていう感じ。
いかにもキネ旬で25位あたりにランクされそうな映画だった。
監督・脚本の入江悠は、この映画で好評を博したにも拘わらず、映画の製作と宣伝に自分の財産と時間を使いすぎて、とうとう東京に住めなくなって埼玉だか千葉だかに引っ越したという記事を読んだ。制作費に身銭を切って金がなくなったということに加えて、宣伝活動に時間を取られるとアルバイトや他の映像の仕事をやっている暇もなくなるということだ。
続編である『SR2 サイタマノラッパー2 ~女子ラッパー☆傷だらけのライム~』はちょうど今公開中だか、DVD販売を含めて、この2作品の収入で以て、なんとか彼が次の作品を作れるような環境に戻ることを願うばかりである。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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