『明日のテレビ』志村一隆(書評)
【7月14日特記】 よくまとまった本である。
僕は放送局に務めていて、しかも、その中で一番インターネットに近い部署にいるので、僕が読むと知ってることばかりが書かれていて物足りない気がするのも確かである。でも、同じ会社の中でインターネットと接点のないまま、接点を考えることもなく働いている多くの同僚や先輩で、こういうことをちゃんと理解していない人はかなりいるのである。
そういう人たちに読ませてやりたい本である。
世間一般の人にとってはなおさら知らないことばかりなのかもしれない。しかし、そういう人たちが読んでもすんなり頭に入ってくる構成であり、すっと理解できる文体の本なのである。
テレビの側の人間からすると、例えば放送の法制度のこと、視聴率調査のこと(そして、特にそういったことの日米の違い)など、少し勉強不足/突っ込み足りない面はないでもない。
だが、この本の狙いは微に入り細を穿って放送とネットの関係を点検/究明して行くことではなく、ざっくりと傾向を提示しうっすらと未来を覗かせることなのである。そういう意味では非常に適切にその役目を果たしていると思う。
昨今、世の中を動かす大きな力となってきているのがユーザの側の使い勝手、ユーザビリティである。テレビの世界ではもちろん作り手の側の「理念」は必要である。ただ、その理念だけで動かして行くことが不可能になってきているのが今の時代なのである。
この本は専らユーザの観点から書かれている。だから非常に平易な形でテレビが抱える問題点、これからテレビがあるべき姿があぶり出されている。
そういうことを、詰問調ではなく、ほんわりと見せてくれているところが、この本の一番の魅力なのかもしれない。
こういう問題点を考えるスタートとして、この本を選ぶのは正解である。
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