『算数宇宙の冒険』川端裕人(書評)
【7月2日特記】 うーむ、困った。どう評して良いかよく分からないのである。僕には一知半解であったが、これは読んだ僕が悪いのか、書いた作家が悪いのか…。
数学に材を得た、小学生を主人公としたファンタジーであり、数学世界への冒険譚である。で、出てくる数学がゼータ関数だのリーマン予想だの、ちょっとやそっとではない難しさである──と言うよりも、現代数学最高峰の難題を扱っているのである。
そんな本を選んでしまった僕が悪いのか、あるいは、こんなテーマに挑んでしまった作家が悪いのか。
ともかく、少なくとも数学の部分は生半可にしか解らない。恐らくこの小説を読んで面白いのは僕より遥かに数学的なレベルの高い人だろうと思う。そういう人であれば、読みながらニッと笑えるのかもしれない。
そして、そういう人にとっては、この今イチ脈略がないようなストーリーも、多分数学を介することによって、もっと繋がりの良いものになるのではないかと思う。
逆に数学が全く理解できなければ、この物語は奇想天外どころではなく、単なる荒唐無稽に堕ちてしまうだろう。
上に書いたように、主な登場人物は小学生である。いくら数学の天才と言っても小学生にオイラー積だの複素平面だのはあんまりだろうと思う。ただ、主人公であり、メインのキャラの中で一番数学に弱い空良が求められるのが、問題を解くことではなく問題を鑑賞することなのである。
このへんのこと、つまり、解けなくても鑑賞できるんだ、という感じは読んでいて非常に伝わってくる。そういうことができる虚心坦懐な主人公を想定しようとすれば、必然的に小学生になったのかもしれない。
そして、その鑑賞するという心構えは恐らく作者の心構えなのであって、その心構えがこれほどまでに独創的な物語を産んだのだと思う。言わば作者は高度な数学を解する脳と、邪念なくそれを鑑賞できる澄んだ心の両方を持っているのだと思う。
となると、そういう人の書いた本を凡人が理解しがたいのはある意味当然ではある。解らないながらも、曲がりなりにも何がしかの面白さを感じ取った僕は、むしろラッキーな読者であったと言うべきなのかもしれない。
それ以上はちょっと言えない。結構面白いか全然面白くないかは読んだ人がそれぞれ判断してほしい。
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