『オカンの嫁入り』マスコミ完成披露試写会
【6月30日特記】 昨夜、映画『オカンの嫁入り』のマスコミ完成披露試写会に行ってきた。良い映画だった。そんなに凄い映画かと言えばそれほどでもないのだが、とても好感の持てる映画だった。
原作は咲乃月音による第3回日本ラブストーリー大賞ニフティ/ココログ賞受賞作。監督は呉美保。この監督のことはよく知らなかったのだが、デビュー作『酒井家のしあわせ』で高い評価を得て、これが第2作とのこと。
僕は監督で映画を選ぶことが多いが、この作品に関しては大竹しのぶと宮﨑あおいの夢の共演に一も二もなくという感じだった。2人とも大好きな女優なのである。この2人が母と子を演ずる。父親は娘が生まれる前に死んで母子家庭という設定である。
その2人に、中庭続きの隣家に住む大家の役で絵沢萠子、オカンの15歳年下の再婚相手に桐谷健太(この男の登場が物語の発端になっている)、オカンが勤務する町の外科医に國村隼という達者なところが絡んでくる。(宮崎あおい)
タイトルにオカンという言葉が入っていることから分かるように、舞台は関西である。ただし、関西モノの多くはついつい力が入って「どや、これがディープ関西や。参ったか!」みたいな作りになりがちなものだが、この映画はもう少し抑制が効いている。
下手にデフォルメや誇張が施されていない関西。映画の中でも宮﨑あおいは大竹しのぶのことを「オカン」と言わずに「お母さん」と呼ぶ。
大竹・宮﨑の2人は関西出身者ではないが、大阪弁は本当によく練習したと見えて違和感がない。もちろんネイティブが聴けばネイティブでないことは欺きようがないが、でも、よくここまで練習したとネイティブが褒めたくなるほどである。
しかし、宮﨑あおいの冒頭の演技がちょっとオーバーアクションだったのは、この大阪弁に引っ張られたかなあという気はする。ややオーバー目の演技というのも宮﨑あおいの引き出しの1つだと僕は思うのだが、相手が大竹しのぶだとちょっと目につく、と言うか、鼻につくと言うか…。
僕は宮﨑あおいは若手ではかなり上手い役者だと思っているが、それでも大竹しのぶの前ではやっぱり負けてしまう。格が違うと言って良いと思う。そして、終盤のシーンに至ると次第に宮﨑あおいが大竹しのぶと化学反応を起こして来るのが見て取れる。この2人の絡みが素晴らしい。そういう時にカメラはここぞとばかり寄って来る。
桐谷健太は思いっきりオーバーアクションな演技を売りとしている役者で、2人に上手く絡むソースの役割を果たしている。そう言えば桐谷は板前の役だ。そして、オカンにずっと気があった外科医役の國村隼も美味しいオカズである。
さらに宮﨑あおいの会社の同僚を演じた林泰文が今までになかった役柄で、これは強烈な香辛料になっていた。
まるで映画の中で桐谷健太が作る手際の良い和食みたいな映画だった。
特に脚本が良い。伏線が効いている。それも「ああ、あそこであんな思わせぶりなこと言ったのはそういうことだったのか」「あのシーンでの思いつめたような視線はそういうわけだったのか」と後から気づく抑えた伏線である。
今回僕は、あえてストーリーはほとんど書いていない。そのほうが観て面白いと思う。「大阪の人情もの」というひと言で括ろうと思えば括れる作品であるが、ギトギト、コテコテの大阪ではなく、薄味の上品で旨い関西の味である。
そういうところが本当によく分かっているのが呉美保による脚本だと思った。繰り返して書くが、非常に好感の持てる映画だったと思う。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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