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Saturday, May 22, 2010

映画『パーマネント野ばら』

【5月22日特記】 映画『パーマネント野ばら』を観てきた。これは良いぞ。侮れない佳作だ。

吉田大八監督。長編デビューの『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』が良かった。2作目の『クヒオ大佐』は、吉田監督とは知らず見落としてしまった。

西原理恵子の原作漫画を、『しゃべれども しゃべれども』(平山秀幸監督)やアニメ版『時をかける少女』(細田守監督)の奥寺佐渡子が見事に脚色している。原作を読んでいないので、どこまでが原作通りでどこからが彼女のオリジナルなのか分からないが、ともかく人間がよく描かれている。仏像に喩えるなら魂が入っている感じがする。

どこかの漁港の町。方言からすれば恐らく高知県だ。最初は高知出身でなくても気になるくらい出演者たちの土佐弁に違和感があったが、ストーリーが進むに連れて慣れてきた。

漁港とは言っても主な登場人物に漁師はいない。

舞台は街に1軒しかない美容室「パーマネント野ばら」。そこの店主がまさ子(夏木マリ)である。その「パーマ屋」は近所のおばちゃん(と言うか、年齢的にはむしろおばあちゃん)らがたむろする場になっている。話題はもっぱら「ちんこ」。彼女たちは何ヶ月も持つようなカチカチのパンチパーマを当ててくれと言い、事実みんなそんな髪型をしている。

そこに娘・もも(畠山紬)を連れて出戻ってきたのが、まさ子の一人娘のなおこ(菅野美穂)である。

街にはなおこが小さい頃からの親友、みっちゃん(小池栄子)とともちゃん(池脇千鶴)がいるが、彼女たちも揃いも揃って男運が悪い。

みっちゃんはフィリピン・パブのママをやっているが、亭主は店の女の子に順番に手を出しているような男。ついに嫉妬に狂ったみっちゃんは亭主の浮気相手のホステスを車で轢き殺そうとするなど、修羅場の連続である。

ともちゃんはともちゃんで、つきあう男つきあう男が悉く暴力を振るうタイプで、漸く暴力的でない男(山本浩司)を見つけて結婚したまでは良かったが、すぐに亭主はパチスロを皮切りに博打三昧。今は闇麻雀に嵌って家に帰って来ないのは愚か、どこにいるのかも定かでない。

他にも登場人物はいろいろと問題を抱えており、まさ子の夫(なおこの実父ではない)・カズオ(宇崎竜童)は家に帰らず同じ街で別の女と同居して農業をやっている。みっちゃんの父(本田博太郎)はボケが始まっていてとんでもない奇行に走る。

こういう結構悲惨な話が極めて明るくコミカルに描かれているのである(実際客席からは笑い声が絶えない)。

そんな中で、唯一なおこだけが一見まともに思える。しかし、一方で彼女もまた心に何かぽっかりと空洞を抱えている感じがする。映画の中では語られていない離婚の原因がそこにあるのかもしれない。そして、その彼女の心の空洞を埋めてくれているのは、今交際している高校教師・カシマ(江口洋介)である。

上に挙げた主演・助演の役者たちが一人ひとりとても良い味を出しているが、とりわけ菅野・小池・池脇の3女優が素晴らしい。

池脇の演技力は既に定評があるところだが、今回もこのどん臭い女をほんとにどん臭く演じている。そして、『接吻』(万田邦敏監督)で主演して以来長足の伸びを見せている小池も、ハチャメチャに見えてハチャメチャに終わらない、人間らしいキャラクターを好演している。

そして、なんと北野武監督の『Dolls』以来の主演となった菅野美穂は、「果たしてこんなに上手い女優だったっけ?」と思うくらい良かった。自然な演技でなおこの「弱さ」を素直に表現できていた。観客がなおこに対して共感を持てる演技であったのではないだろうか。

ともかく、しっかりとした観察眼に支えられた奥寺佐渡子の脚本が素晴らしい。ダメな奴、弱い奴、外れ者、変わり者、頑固者、運のない奴──そういう人たちに対する優しさが溢れている。いや、人間そのものに対して愛がいっぱいなのである。

カメラはあまり動かない。カットを切らずに役者に良い芝居をさせている。こういうのは長回しって言わないんだと思う。そういうテクニックっぽい感じがまるでなくて、本当に登場人物を見守っている感じがする。ちなみに撮影は、山下敦弘監督の一連の作品や『ウルトラミラクルラブストーリー』、『ソラニン』などを手がけた近藤龍人である。

で、このまま日常を淡々と、と言うかしっとりと、いやしっかりと描いて終わるのかと思えば、終盤に結構大きな仕掛けがあって驚かされる。こういう構成も見事。いやいや、ほんとに良い映画であった。

見終わって、後ろの席にいた女性3人組のひとりが、「私こういうゆるい映画好き」と言っているのが聞こえた。

こういう映画を「ゆるい映画」という表現で括ってしまう彼女のゆるい感性に少しげっそりしたが、まあ、この映画が好きだと言うなら、別にそれでも良いかという気もした。

見終わって少し優しくなれる映画なのかもしれない。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

アロハ坊主の日がな一日

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