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Saturday, May 01, 2010

ドラマW『一応の推定』

【5月1日特記】 連休に入ったので溜まっているビデオを消化しようと思い、まずは WOWOW で2月に放送されたドラマW『一応の推定』から手をつけた。

広川純による同名の原作小説があり、これは第13回の松本清張賞に輝いている。

脚本が竹山洋、監督が堀川とんこうという大ベテラン・コンビで、僕はどうも大ベテランの仕事を見くびる悪癖がある(笑)のだが、これが意外に面白くて最後まで飽きずに観た。

保険の調査員の話である。

被保険者が亡くなったとき、保険会社は下請けの調査会社を使って独自の調査をする。そして、その結果それが自殺であるという「一応の推定」というものが成立すると、保険会社は「無責」となって保険金を支払う必要がないのだそうだ。

ここでは詳しく書かないが、法律的にその「一応の推定」が成立するための4つの条件があり、調査員はそれをつぶさに調べて行く。

あらすじはこうである:

老人がホームから線路に落ちたところに列車が入ってきて、老人は即死する。事故とも自殺とも断定できない状況ではあったが、実は警察は事件性がないことだ けはっきりすると、それ以上あまり細かく捜査することはないのだ。

ただ、損保会社としては傷害保険の保険金を支払うかどうかが大きな問題であり、警察がほどほどに打ち切ったあとを承けて、調査員の執拗な追及が始まるので ある。

その調査会社の、定年目前の調査員に扮したのが柄本明である。彼には「正義のために」公正な仕事をしてきたという自負がある。そして、その柄本に対して「発注元」の立場で常に「上から目線」でものを言う、糞生意気な保険会社の若手社員に扮したのが平岡祐太である。

この2人がとても良かった。

この2人が、刑事ドラマによくある「手だれの老刑事と暴走気味の若手刑事」コンビよろしく事件を追って行くのだが、よくある安物のサスペンスみたいに、「警察が見抜けないことを素人が次々と見破って事件を解決する」みたいな不自然さはない。

死んだ老人は3000万円の傷害保険に入っており、彼の孫娘は心臓の難病に罹っており、募金を募って海外で手術を受けようとしている。ただ、そのための費用は最低でも 5000万円。滞在費ほかを含めると 7000万円になると言う。保険金だけでは全然足りないのである。

この辺りが自殺であるとも断定しにくい、非常に巧い設定になっている。

平岡が演じる若い社員は最初から無責と決めてかかって簡単にことを済ませようとする。ところが、ベテラン調査員の柄本の勘とプライドがそれを許さない。2人はことあるごとに衝突する。しかし、次第に平岡も柄本の生き方に感化され、謙虚に真実を見つめようとする。

それで2人が一致協力して、自殺ではなく事故であったという、会社の利益には反する事実を証明する──というほど単純な筋ではなく、ここにもう少しひねりが加えてある。よくできたストーリーだと思う。

死んだ老人に上田耕一、その妻に白川和子、娘に酒井美紀、老人に傷害保険加入を進めた保険代理業の男にベンガル、他にも美保純、鶴田忍など地味ながらしっかりした配役である。

主演の2人の、いかにも「らしい」台詞の応酬に、部長昇進を伺っている平岡の上司・綾田俊樹が絡んでくるのだが、この辺がサラリーマンの上下関係、受発注の上下関係を見事な手際で浮き彫りにしている。

非常にストレートで、でも力の抜けた自然なドラマだった。大ベテランは良い仕事をするのだな、と認識を改めた1本であった。


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