『次世代広告進化論』須田伸(書評)
【5月26日特記】 須田和博さんの『使ってもらえる広告』を読んだついでに(などと言うと失礼だが)、同じ須田姓の伸さんが書いたこの本も読んでみた。
いや、この2人、苗字だけでなく意外に共通点が多いのである。生まれ年も同じ(1967年)だし、ともに元博報堂だし。で、こっちの須田伸さんは現在はサイバーエージェント勤務。
昨今、広告の構造変化を受けて、いや、世の中の構造が変化するに伴って広告のほうもスタンスを変えざるを得なくなってきたということなのだが、広告関連の出版物が相次いでいる。
例えば佐藤尚之さんの『明日の広告』、岸勇希さんの『コミュニケーションをデザインするための本』、そして前掲の『使ってもらえる広告』──いずれも却々の良書だと思う。
この『次世代広告進化論』もそれらと比肩する良書であると言っても良いが、上記3冊と並べると、2つのタイプに分かれるのではないだろうか。
『明日の広告』と『使ってもらえる広告』は普段広告とは何の関係もない仕事をしている人が読んでも充分理解できるし充分面白い内容であると思う。それは広告業界にいない人であっても、生活者として広告に触れない日はないのであり、まさにそういう生活者の視点で捉えた記述が比較的多いからである。
それに対して『コミュニケーションをデザインするための本』とこの『次世代広告進化論』は幾分プロ仕様であると思う。
特に須田伸氏によるこの『次世代広告進化論』は、長年作り手として広告に携わってきたプロの立場から、今までのあり方では立ち行かなくなった広告に対する強い危機感に導かれて、後輩の広告制作者に対して真剣なメッセージをぶつけてきたという様相が強いからだと思う。
文中、初心者向けにかなり親切な脚注も付いているが、スタンスの中心に職業意識があるので、この本はやはり広告制作の現場やその周辺にいる人間、あるいは、日々広告を研究している研究者や学生が読んでこそ面白い内容であると思う。
語られているエッセンスを見ると、『明日の広告』や『使ってもらえる広告』と非常に近いものがあり、見る人が見れば見える問題点はかなり共通しているのだということが分かる。
最後に各 Chapter で述べた「論点」だけが抜き出されて再掲されており、それだけで全体のまとめになっているのが面白い。
また最後の最後に「本書全体のまとめ」という項目があり、これが twitter での投稿用にちょうど140字になっているという遊びもある。
ただ、著者は「一番大切なことは、本文の行間にあります(笑)」とも書いている。これは実は後進のクリエイターやプランナーたちに向けられた一番大切なメッセージなのではないか。
つまり、「これだけを守っていれば大丈夫」というルールはもはやないのであり、個別の状況や条件に合せてそれぞれが知恵を絞って行くことでしか、「刺さる」広告は作れないのである。
140字の「まとめ」にもそういう意味を込めた仕掛けがなされている。140字ぴったりで用意されたこの原稿をそのまま twitter に貼りつけてしまうと、それ以上自分のコメントを書くスペースは全くなく、唐突にそんなツイートをしても何のことだかさっぱり解らないのである。
むしろ、「これはありがたい」と、この「まとめ」をそのまま呟いたりすると、それはこの本をちゃんと読めていないということの動かぬ証拠(笑)であり、呟いた本人が恥をかくことになるのではないだろうか。
そういうことを解っていながら、著者はこんな「まとめ」を用意しているのである。僕はそういう遊びを大変面白いものと読み取った。
他にも、雑誌連載中に読者から「もっと具体的に教えてくれ」と言われたことに対して、「具体的には教えられないのだ」という、一見人を喰ったような答えを返しているが、これも長年広告をクリエイトしてきた立場の人間からするとこれ以外の答えはないのである。
そんな書きっぷりから見ても、これはプロ向け、関係者仕様の本なのだと思う。現在広告に携わっている人、これからそういう仕事を目指している人、そういう人に読んでもらいたい本である。
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