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Thursday, April 01, 2010

『ヒーローショー』完成披露試写会

【4月1日特記】 映画『ヒーローショー』の完成披露試写会に行ってきた。井筒和幸監督である。

『みんな、はじめはコドモだった』の時にも思ったのだが、ここ何年かはすっかりワイドショーのガラの悪いコメンテーターのおっちゃんというイメージしかないのに、映画人としての感覚は全然錆びついていない。ワイドショーでしか知らない人は、こんな映画を見せられたら腰を抜かすのではないだろうか。

世間ではリメイクとか焼き直しとか、あるいは既に他の媒体で大ヒットしたものの映画化とか、そんなものばかりがはびこる中で、こんな風にしっかりとオリジナルのストーリーを練り上げて撮影してくるところが本当に立派だと思う。

テンポが良い。ストーリーに隙がなくて飽きさせない。カメラアングルなどに凝り過ぎることなく、どちらかと言うと短目のカットを重ねて、けれん味なく畳みかけてくる。

ストーリーは単純である。──若者同士がけんかになる。負けたほうが助っ人を頼んで報復にくる。今度はやられたほうが別の助っ人を頼みに逆襲する──。報復の連鎖である、悪循環である。いや、単なる循環ではなく、負のスパイラル、アリ地獄である。そしてとうとうのっぴきならない事態になってしまう。

そういう構造はストーリーの初めのほうですぐに見えてくる。ある意味、監督が何を描こうとしているのかが簡単に伝わり過ぎる感じさえある映画である。そう、不毛をありのままに描こうとしているのである。

主演は若手漫才コンビ・ジャルジャルの2人、後藤淳平と福徳秀介である。井筒監督らしい素人使いなのだが、いやもう、この2人がびっくりするほど巧い。2人に才能があったのか、監督の演出が神業なのか判らないが、いや本当にびっくりするくらい良い。

石川勇気(後藤)は調理師を目指す元自衛官で、交際中のバツイチ女・あさみ(ちすん)と石垣島でレストランを開くというしっかりした夢を持っている。鈴木ユウキ(福徳)のほうはM-1を目指すお笑い芸人の卵だが、中途半端を絵に描いたようなダメな奴である。2人が対照的な役を演じているのだが、奇跡的なほど見事な嵌り役である。

この2人だけではない。大して有名な役者はひとりも出ていないのだが、どの役者にもリアリティがある。

この映画に出てくるのはどうしようもない奴らばかりである。しかし、他の人間とは根本的に何かが違う奴らなのではなくて、誰しもどこかで一歩間違ってしまうと気がついたらこんなとこまで来てしまうかもしれないような存在なのである。

その辺の脚本が非常に巧い。本を書いたのは井筒監督と羽原大介、そして前述のオムニバス映画『みんな、はじめはコドモだった』の中でも井筒と共同脚本を手掛けた吉田康弘である。

ユウキがヒーローショーのバイトをしているというのも皮肉が利いて非常に巧妙な設定であるし、あの後味の悪い終わり方も計算し尽くされた正しい終わり方である。余韻が深いとも言えるし、見終わった後も不安を募らせる映画だとも言える。

それは監督の狙った通りなのである。『パッチギ』は良い映画だとは思ったが、2005年度のキネ旬ベストテン第1位に選ばれて、僕はちょっと意外な感じがした。僕は今回のこの映画のほうが『パッチギ』よりも遥かに良い出来であると思う。

上映後に監督とジャルジャルの2人の舞台挨拶があったのだが、関西のマスコミ関係者を前にしているという安心感からか監督は少し喋りすぎた。作者が作品を語り過ぎるのはあまり良くない。観客が自分の手で土の中から掘り出せるのに、先に掘り出して洗って皮まで剥いて見せられたような気分だ。

まあ、監督が熱いのはよく解った。と言うか、基本的に暑苦しいオッサンなのである。この人はやはり映画を撮って、映画で語っているのが良いのではないだろうか。でも、監督の思いは充分に伝わったよと、壇上の監督に語りかけてあげたいような気分になった。

良い映画である。間違いなく井筒監督の代表作になるだろう。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

アロハ坊主の日がな一日

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映画[ ヒーローショー ]を渋谷Nシアターで鑑賞。 まだまだ井筒監督の意欲は衰えを知らない。3年ぶりに撮った作品は、過激も過激。シネカノン時代の[ ゲロッパ ][ パッチギ ]などのポジティブなエネルギー爆発型のエンターテイメントではなく、陰惨で鬱屈したR15指定の低温バイオレンスとして描いた異色の青春映画だ。 主人公は「爆笑レッドカーペット」でおなじみの若手お笑いコンビ、ジャルジャルの後藤淳平と福徳秀介。タイプの異なる役柄で、不条理さの現実の中で出口を求めてもがき苦しむリアルな若者を演... [Read More]

Tracked on Tuesday, July 13, 2010 at 11:47

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