映画『第9地区』
【4月10日特記】 映画『第9地区』を観てきた。
プロデューサは『ロード・オブ・ザ・リング』3部作監督のピーター・ジャクソン、監督はそのジャクソンの秘蔵っ子と言って良いニール・ブロムカンプであり、この映画は彼の長編デビュー作となった。
発想の面白さが全てである。この設定が固まったときにこの映画の勝利は決定した、などと大げさに言っても構わないのではないだろうか(笑) それだけ独創的な設定である。
南アフリカのヨハネスブルグに巨大な UFO がやって来る。しかし、それは上空で静止したままピクリとも動かない。しびれを切らした南ア政府が UFO に穴を開けて突入してみると、そこには栄養失調でぐったりしたエイリアンたちがうじゃうじゃいた──どうです? なかなか素敵な設定でしょ(笑)
で、仕方がないので政府は、その UFO の真下に難民キャンプ「第9地区」を作って彼らを収容するが、完全にスラム化してしまう。
ともかく見た目も醜く汚らしい(人間からはエビ(prawn)と呼ばれる)し、ゴムとキャットフードが大好きでタイヤに群がったり猫缶の奪い合いをしたりする具合で、周辺住民とのトラブルも後を絶たない。
それでとうとう政府は180万人に膨れあがったエイリアンたちの強制移住を決め、その任務を軍事企業 MNU に委嘱したのであった。そして、その指揮を執ることになったのが特に取柄もない脳天気な社員ヴィカスだった。彼の職務は一匹ずつのエビから移住同意のサインを取ることである。
最初のシーンでマイクのコードが絡まったりする辺りの細かい演出で、この男の無能さがうまく表されている。めちゃくちゃ訛りのきつい英語を話すのは、同じ白人であっても旧宗主国であるイギリス人からは低く見られている「アフリカーナー」であるということらしい。
そのヴィカスがエビたちの掘っ立て小屋で正体不明の液体を浴び、その後彼の身体はだんだんエビの姿に変容して行くのである。
従来の映画では、エイリアンというのは地球を侵略したり地球人を殺しまくったりするか、あるいは見た目は少し不気味でも意外に知性的な面を見せるフレンドリーな存在であるかのどちらかだった。ところが今回は大量の難民である。何度も書くが、その発想が秀逸である。
で、元からの住民である地球人との間に当然軋轢が生まれるのだが、場所が南アという場所だけに、これは紛れもなく白人と黒人の人種対立を思い出させる。その辺りが結構深い構造なのである。エビたちの不愉快極まりない行動もあるのだが、地球人たちの謂われない偏見が対立を増幅している面もあるのである。
かつての西部劇のインディアンを宇宙人にしたのが『アバター』であったとすれば、今回はアパルトヘイトの黒人を宇宙人にしたものであるとも言える。
さて、その後の展開となると実はそれほど精緻なものではない。
- ヴィカスが浴びたのは実は燃料であったのに、それで身体がエビになってしまうのは不自然だ、とか
- そんなに携帯電話使ってたらもっと早くに居場所を突き止められるだろう? とか
- エイリアンの容姿にしても、かたやタコでこなたエビであるとは言え、それは『パイレーツ・オブ・カリビアン』に似てやいませんか?とか
- おっとそれはガンダムとかに登場するモビルスーツそっくりではないか、とか・・・。
突っ込みどころは結構満載である。
そもそも宇宙船に乗り組むともなるとそれなりのエリートのはずなのに、このエビたちはなんでこんなにも卑しいのかと(笑) いや、それは地球人的な感覚の「卑しい」とエイリアン的な感覚のそれとのズレかもしれない。
しかし、ひとりのエイリアンの科学者(地球人からはクリストファー・ジョンソンと呼ばれている)とその息子の天才少年が非常に知性的に描かれているのに対して、他のエイリアンたちはまるで原始人、と言うか獣以下であり、その両者のギャップが激しすぎるのである。
まあ、でも、最初に書いたように、最初の設定のユニークさがこの映画を最後まで息切れせずに引っ張ってくるのである。
それはそれで大したものであるし、見るだけの価値がある映画だと思う。
なかなか面白かった。
ところで、パンフレットを読むと、僕が「ガンダムに出てくるモビルスーツそっくり」と書いたものは、実は『超時空要塞マクロス』を参考に制作されたとか。どっちにしてもパクリではあった訳である(笑)
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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