『アウトレイジ』完成披露試写会
【4月6日特記】 映画『アウトレイジ』の完成披露試写会に行ってきた。何を隠そう、僕は北野武映画の大ファンなのである。
ただし、決して初期のバイオレンス映画のファンだと言うのではない。例を挙げるなら最近作の『アキレスと亀』のような作品に魅かれるのである。しかし、この映画は紛れもなく『その男、凶暴につき』や『ソナチネ』などの、初期の作品を彷彿とさせる、正真正銘のバイオレンス映画である。
かねてから北野武は「暴力はちゃんと痛いのが分かるように描かなければならない」と言っているが、この映画も例外ではなく、ともかく痛い。まともに目を開けて見ていられないほど残酷でショッキングな映像の連続である。
で、ストーリーはと言えばただただヤクザの不毛な殺し合いでしかない。
なのに、どうしてこんなに深い感慨が残るのだろう? それこそが恐らく北野武の表現力なのである。
すでに多分多くの人が指摘していると思うのだが、従来のたけしの、あまり「もの言わぬ」映画と比べて、この映画は台詞が多い。しかし、台詞が語っているのではない。やっぱり画が語っているのである。
北野監督は一体それぞれのカット割りについてどれほど細かい指示を出しているのだろうといつも訝るのだが、なんであれ出来上がってきた映像には如何にも北野武らしい緊張感が漲っているのである。
一門の会が終わるのを表で待っている、黒服のヤクザと黒塗りの外車を延々と映して行く冒頭のシーン。そして随所に出てくる、まっすぐに伸びる道路や黒い車の列のカット。床に這いつくばったヤクザの下位者が上位者を見上げる構図。逆に上位者が下位者を見下す構図。突然暴力が始まるときのカットの切り替え──どれをとっても非常に印象の強い画作りである。
今回はそこに鈴木慶一が作ったパーカッシブな BGM が載っていて、それが見事な効果を上げている。
そして、出てくる俳優がどれもこれも巧い。登場人物が多すぎて最初は誰がどこの組なのかこんがらがってくるのだが、ヤクザとつるんでる警官の小日向文世以外はいずれもヤクザであり、しかし、それぞれにしっかり区別のつく色とりどりのヤクザである。
北村総一朗、三浦友和、國村隼、杉本哲太、石橋蓮司、中野英雄、塚本高史、椎名桔平、加瀬亮、柄本時生・・・。このひとりひとりが賞を取れそうなほどの演技をしている。特に加瀬亮は今までになかった役柄で、結構凄かった。メインの出演者の中で恐らく一番下手だったのはビートたけしではないだろうか?
この映画を見て暴力を真似する子どもは恐らくいない(まあ、R15+ なので子どもは見られないのだが)。ヤクザに憧れる若者も多分いないだろう。何故なら、あまりに痛すぎるからである。
だからと言って、これは暴力反対の教訓を込めた映画でもない。暴力に対して肯定的でも否定的でもない。ただただ、ざわざわとした感じが心の中に残るのである。
このざわざわとした、やりきれない感じを描くために、これだけの人を無駄に殺すのである。たくさん人の死ぬ映画は今までにもたくさんあったが、こんな感じを残せるのは北野武だけかもしれない。
僕の本来好きなタイプの北野映画ではなかったが、やっぱり北野武というのは相当な監督だと思う。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
Comments
レビューありがとうございます!
僕もキタノ映画大好きです。
今から楽しみです♪
Posted by: mame | Monday, April 19, 2010 14:06