ドラマW 『パーフェクト・ブルー』
【3月13日特記】 録り溜めたまま見ていなかった WOWOW のドラマW をまた1本消化。今日は「宮部みゆき『パーフェクト・ブルー』」。
ドラマW が宮部みゆきに取り組むのは『理由』、『長い長い殺人』に続いて3本目だが、特に最初の『理由』は出来が良く、映画館でも上映された(ちなみに2004年のキネ旬6位)。監督は大林宣彦だった。僕もこの作品は WOWOW ではなく新宿武蔵野館で観た。
今回の『パーフェクト・ブルー』の監督は下山天だが、やっぱり大林の『理由』に比べるとかなり見劣りしてしまう(まあ、比べるのはかわいそうと言えばかわいそうだが・・・)。
『理由』は僕が原作を読んでいたからかもしれない。だからまず、あれだけの原作をよくこんな風にまとめたなあ、という尊敬の念が湧き、それが作品全体に対する好意になったのかもしれない。
ただ、いずれにしても、宮部みゆきの作品は2時間のTVドラマにするには長すぎるし入り組みすぎているのである。だから麻生学監督は『長い長い殺人』に140分を費やしていた。
『パーフェクト・ブルー』は119分にまとめてあったが、まとめるだけで精一杯という感じではなかったか。残念なことに突っ込みどころ満載のミステリになってしまった。
いや、これには宮部みゆきの責任もある、と言うか、これが宮部みゆきの特徴なのである。宮部みゆきは人物ではなく社会を描く。社会があって、社会に問題があって、そのことによって事件や犯罪が起きてしまう──そういう構造を描いているのが宮部文学なのである。
そのためにどうしても登場人物は少し類型的になってしまう。それをさらに2時間のドラマに切り詰めようとすると、その傾向がなおさら強くなってしまうのは仕方がないことなのだろう。
設定とストーリーは非常に入り組んでいる:
三友製薬の新ドーピング薬“パーフェクト・ブルー”の開発と、その開発の過程で行われた“人体実験”。人体実験の被験者にされてしまった少年野球の選手たちと、その中に100人に1人の割合で現れる副作用を発症して野球を断念するしかなかった少年。
三友製薬の元グランドキーパーで、その職を馘になった後でその新薬の秘密を掴んでしまった男。三友製薬の総務課長で、妻を欠陥車による交通事故で失いながら“企業の論理”で真相を葬られてしまった男。
そんないろいろな人物が見事にストーリーに絡め取られて行く中、それを紐解いて行くのが元刑事の探偵事務所長・諸岡浩一郎(宅麻伸)とその娘で助手の加代子(加藤ローサ)である。そこに最初の殺人事件の犠牲者の弟である進也(中村蒼)が加わる。
他に警官役で甲本雅裕、三友製薬社長に大杉漣、進也の両親に石黒賢と藤田朋子、三友をゆする男に津田寛治と地味ながら良い配役で好感は持てる。探偵事務所で飼われている元警察犬のシェパードがこれまた良い演技をしている。しかし、どうにもこうにも加藤ローサの女探偵はリアリティに欠ける。
そして、多分原作ではもっともっとスペースを割いて入念に描くことによってすんなり繋がっていたはずのいろんな部分が、2時間のドラマにするために切り貼りされて、結局のところ突っ込みどころ満載になってしまった。
本を読んでドラマにしたいという気持ちが湧くところまでは良い。ただ、それが2時間の単発番組や映画にふさわしいかどうかはもう一度よく考えるべきではないだろうか。
たとえば、これならTVの連続ドラマにすれば良いのではないか? 54分番組でも1クール10本やれば正味で7時間以上の時間が取れる。そういう意味でTVの連続ドラマの存在意義を思い出させてくれるような作品だった。
カメラマンがとても頑張っていて、人物だけではなくその背景にまで気を配っているのがよく解って好感を覚えた。
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