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Friday, March 26, 2010

『座頭市 THE LAST』マスコミ試写会

【3月26日特記】 映画『座頭市 THE LAST』のマスコミ試写会に行ってきた。僕は正直言って時代劇はほとんど見ないし、よく解らないのだが・・・。

最初に断っておくと、僕は勝新太郎の座頭市は1本も見たことがない。北野武の座頭市は見たが、あれはリメイクと言うよりパロディと言うべきだろう。すこぶる評判の悪かった曽利文彦監督の『ICHI』は結局見ない間に終わってしまった。

僕でさえこんな具合だから、勝版の市を知らない観客はかなりいると考えるべきだろう。そして、多分そこまで想定した上で選んだのが今回の香取慎吾だったのではないかなという気はする。

しかし、その香取慎吾が良くなかった。少なくとも僕にとっては。

やっぱり、座頭市というのは勝新太郎やビートたけしのようなある種のオッサンが演ずるべきキャラクターなのではないだろうか。それは僕らの先入観とか既成概念とかいうことではなく、もう子母澤寛が原作を生み出したときからそういうキャラだったのではないだろうか?

確かに SMAP の5人の中では香取慎吾だったのかもしれない。ジャニーズ事務所の中では香取慎吾だったのかもしれない。しかし、あまたある俳優の中から香取慎吾を選んだのは間違いであったような気がしてならない。

ともかく演技が堅い。もっと柔らかい演技ができる役者ではなかったか、と訝しい気持ちで一杯だ。それは香取自身の脳裏にも勝新の座頭市のイメージが染み込んでいたからではないのかな? 熱演ではあるのだけれど、いや熱演であるからこそ、なんか空回りする感じがある。

見ていて「違うな」という気が、かなり早い段階からしてくる。そして、(ストーリーのせいもあるのだが)ともかく非生産的な映画だなあという気がする。「虚無」や「無頼」ではなく「非生産的」という印象を与えてしまうところが詰まるところ香取版の市の限界なのではないかと思う。

これならむしろキムタクや稲垣がやったほうが面白味があったかもしれない。そう、面白味に欠けるのである。いっそこのこと綾瀬はるかが演じるほうがよほどインパクトがある。

で、香取が冴えない分、共演者の良さが目立つのである。

仲代達矢、倍賞千恵子、原田芳雄、中村勘三郎。──そりゃ、そんな大御所たちと比べると可哀想だと思うかもしれない。確かに仲代や原田のこの映画における演技は「怪演」と言って良いと思う。

しかし、そういう大御所たちだけではなく、市の女房になった石原さとみ、親友の反町隆史、仲代達矢が扮するヤクザの気弱な息子を演じた高岡蒼甫、そして仲代の手下を演じた ARATA などがものすごく良い芝居をしている。いつも脇役で輝いている寺島進が霞んでしまうくらいだ。

雪をバックにした香取と倍賞のシルエットのシーンをはじめ画作りは全編に亙ってとても綺麗だし、脚本にしても、この手の物に共通の「なんでこんなに斬られても死なないのか」という突っ込みどころはあるが、それにしてもこんな単純な筋でよくこれだけうねらせるなあと感心するところはある。

『どついたるねん』に始まって『王手』や『ビリケン』、『顔』あたりを撮っていた時にはそうは思わなかったが、『KT』やら『魂萌え!』やら『闇の子供たち』などと並べると本当にいろんなものに意欲的に挑んでくる監督だなあという気がする。

そういう風に撮ってきたときに、きっと魔が差して『座頭市』に手を伸ばしてしまったのだろうなと思う。そこまでは良かった。でも、香取を起用した時点で何かが狂ってきた。

──という風に、映画を観ている間じゅうずっと香取に対する違和感があったのである。そして人が次々に斬られて死んで行くばかりの筋立てに嫌悪感もあったのである。

ところが、見終わって暫くすると、不思議に香取の市が自分の記憶の中で落ち着いてきたのを感じるのである。あの嫌悪感にしても、きっちり監督の術中に嵌っているからこそ感じるのかもしれないという気がするのである。

うーむ、これは『魂萌え!』の時と同様に、見終わって暫くしてからどんどん評価が高まってくる映画なのかもしれないという気がしてきた。

結局良い監督の作品というのはそういうものなのかもしれない。もっとも『闇の子供たち』は見終わった後も評価が高まったりすることは全然なかったけれど。

ともかく、今は微妙。

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