映画『時をかける少女』1
【3月21日特記】 映画『時をかける少女』を観てきた。
原作は言うまでもなく筒井康隆の同名の小説である。何度もTVドラマ化/映画化/アニメ化されているが、僕は元来リメイクというものにあまり興味はない。これを観たのはひとえに仲里依紗が主演だったからだ。
そう、普段は監督で映画を選ぶことが多い僕だが、今回はそうではない。『純喫茶磯辺』と『パンドラの匣』を観て、その魅力にすっかり取り憑かれてしまった仲里依紗が目当てである。──ちょっと田舎臭い可愛さ。でも、ただ可愛くて魅力的なだけではない、かなり巧い女優である。
そして、これは観て初めて知ったのだが、仲里依紗の母の若い頃を演じているのが、『きみの友だち』でこれまた鮮烈なデビューを飾り『色即ぜねれいしょん』のマドンナ役も印象深かった石橋杏奈であった。
このダブルの配役にはなんかとても得した気分である。
さて、冒頭に書いたように、原作が1967年に発売されて以来、1972年、1983年、1985年、1994年、1997年、2002年、2006年と過去7回にわたってこの小説は映像化されている。ただ、僕にとって『時をかける少女』と言えば、それは1983年の大林宣彦監督・原田知世主演の角川映画以外にあり得ない。
2006年の細田守監督のアニメ版(奇しくも主人公の吹き替えをやったのは仲里依紗だった)も、あれだけ評判が良かったのに観なかったのは、原作の単純なアニメ化だと思っていたせいもあるが、やはり原田知世以外にこの作品はあり得ないと思ったからだ。
それが、仲里依紗が実写で主演すると聞いて初めて観たいと思った。そして、今回はリメイクではなく、舞台は2010年で、あの芳山和子が今や母になっていて、その18歳になる娘・あかりがあの原作の時代にタイム・リープする話である。
脚本は菅野友恵。長編映画デビューだそうだが、よく書けている。
過去に行ってもお金に困らなかったのは何故か、日付を覚えていたのは何故か、など、いい加減に作ると綻びてくる設定をちゃんと仕立ててある辺りは抜かりがないし、大げさな台詞がなく、それでもちゃんとドラマとしてうねりを作り出して行っているところが立派だ。
そして、撮影は上野彰吾。とっても魅力的な画作りだと思った。横から滑り込んで撮ってるから良いとか真上から撮ってるところが適切だとか、そういうテクニカルな問題ではない。こういうのって、センスが良いとしか言えないのではないかな。
監督は谷口正晃。この人も長編デビューであるが、根岸吉太郎、滝田洋二郎、橋口亮輔ら名だたる監督たちに仕えてきただけのことはある。非常に空気感のあると言うか、統一感のあると言うか、ともかく全編に監督のコントロールが行き届いているのがよく分かる作品に仕上がっている。
パンフレットに載っていた大林宣彦が今回の映画化の真価を「作劇上の気品」と、非常に上手く形容している。そう、ある種の気品の感じられる作品だと思った。
仲里依紗の魅力は全開である。とても表情が良い。だからアップに耐える女優である。この映画でもクロースアップは駆使されている。
タイム・リープした仲里依紗が、自分の母の若い頃である石橋杏奈と並んだシーンでは、本当に2010年の女子高生と1974年の女子高生が並んだような、まるで合成したシーンを見ているようなイメージがあり、この辺は女優の力なのかスタッフの力なのか分からないが、ともかくすごいなあと思った。
そして、観るにつれてもうすっかり忘れていた1983年の『時かけ』が次第に甦ってきた。──そう、ケン・スゴル! 確かにそんな名前だった!等々。
しっとりと心に沁みる良い作品である。
ただ、惜しむらくはエンディング。何故それを言うかと言えば1983年の映画で原田知世が主題歌を歌うエンディングがものすごく印象的だったから。
それまでの映画ではエンディングのスタッフ/キャスト・ロールというのはただ黒い画面に次々と流れて行く名前を見せられるだけのものだった。
ところが1983年の『時かけ』では原田知世がテーマソングを歌うシーンが流れて、それにカットバックや若干のメイキング映像をも交えて DVE で派手に切り替えながら、映像の余白に名前を入れ込むという形で、めちゃくちゃ楽しく見せてくれたのである。
それが日本映画で初めてということでは多分なかったのだろうが、少なくとも僕にとっては初めて見る仰天のエンディングだった。
当時の鑑賞メモに僕はこう記している:
そしてラスト。あのラストの歌うシーン! いつも途中で席を立つ卑しい客たちめ、ざまあ見ろ。スーパーがぎゅーんと移動して知世ちゃんが歌えば誰一人として席を立てなかったじゃないか。(1983年7月24日、梅田松竹)
ただ、今回のいきものがかりは良かったねえ。原田知世のオリジナルよりも遥かに良かった。
脚本、カメラ、役者、音楽、そして全体の統一感──褒めて良い映画だったのではないだろうか。うん、とても良かった。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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