『ツイッターノミクス』タラ・ハント(書評)
【3月17日特記】 タイトルが誤解を与える惧れがあるので最初に註釈をつけておくと、この本は専ら twitter について書かれた本ではない。twitter や SNS などを広く使って行うコミュニケーション・マーケティングの指南書である。そして、第1章の1行目の最初の単語として登場する「ウッフィー」がそのキーワードである。
ウッフィーは Web2.0 の世界でビジネスを推し進めて行くためのソーシャル・キャピタルである。それは「その人に対する評価の証と考えればいい。人に喜ばれるようなことをしたり、手助けをしたりすれば、あるいは大勢の人から尊敬され評価されれば、ウッフィーは増える。逆なら減る」(13ページ)。
しかし、そこで説かれているのは慈善や博愛の勧めなどではなく、あくまで利潤を追求するための道具なのである。この逆説的な構造こそがこの本のミソなのである。
マーケティングの指南書と言いながら、この本はとても平易に書かれている。そして、そういう才能が著者タラ・ハントを、米誌が選んだ「テクノロジー関係で最も影響力のある女性」のひとりに引き上げたのだと思う。
ここで書かれていることは、公私を問わず普段からブログや twitter などを通じていろんな活動をしている人間にとっては別段珍しい話ではない。なるほどと感心することよりも、普段自分が感じているのと同じことをタラが補強してくれているのを読んで心強く感じることの方が多い。
むしろ、ソーシャル・ネットワーキングについて何も知らないあなたの上司に読ませるのが良いのかもしれない。
いや、しかし、下手すると「こんなインチキな本にかぶれやがって」と思われるのが関の山かもしれない。この本を理解するには多少ともウェブ上の交流の経験が必要とされるだろう。そこが一番難しいところだ。
ウッフィーを増やす原則は、タラによると5項目ある。その中でも特徴的なのは、1)大声でわめくのはやめ、まずは聞くことから始める、と、4)無秩序もよしとし、計画や管理にこだわらない、の2つではないかと思う。これが実感できなければ、タラの説は全く説得力を持たないだろう。
そして「大切なのは、『ターゲット顧客』を設定して売り込みの対象にするのではなく、本物の顧客とつながりを持つこと」(122ページ)なのである。
中盤の、それぞれの用途に相応しいネット上のツールを紹介しながら様々な実例を挙げてマーケティングを文字通り指南しているパートは、残念ながら日米の環境の違いがあり、あまり参考にならないかもしれない。大切なのはこのパートではなく、この本全体が説いているエッセンスである。
「訳者あとがき」には「ウッフィーの算数」なるものが紹介されている。曰く、大物ブロガー20人に献本するより自分のフォロワー20人に献本した方がよほど本の評判は広がるという理屈である。
この邦訳『ツイッターノミクス』はその理論に基づいてウェブ上で募集した100人に進呈された。実は僕もそのひとリである。そして、そのひとりがこうやって書評を書き、そして何人かの人がこれを読んでくれている。
──このことこそが、この本で書かれていることの楽しい証明の第一歩にほかならない。この本を通じて仲間が増えて行くことを僕も望んでいる。
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