32年前の馬
【3月28日特記】 twitter のタイムライン上に、「劇団四季の『エクウス(馬)』を観た」というつぶやきを見つけた。「アイスピックで6頭の馬の眼を潰した少年と、精神科医の対話で物語は進む。35年前の初演と同じ、日下武史さんが主演」とある。
あ、それなら僕も観たぞ、と思って記録を繰ってみる。僕は演劇やコンサート、展覧会などのチケットをスクラップブックに貼りつけてあるのである。果たして1978年3月4日のマチネーをサンケイホールで観ている。
32年前、初演から3年目の、油の乗り切った日下武史である。そして、この時少年役を演じたのは当時まだ新進気鋭の市村正親であった。
そんなことを思い出しながら、ふと、自分はこの芝居を見たことが放送局に就職するきっかけになったのではないかという気がしてきた。
大学に入ってから学内の劇団の芝居を見始めていたので、決してこれが生涯最初に観た演劇ではない。だが、大きな劇団としては初めてであった。そして、見終わった時に底知れぬほどの深い感慨を抱いたことを今でもよく憶えている。
そのこともあって、その後何度も劇団四季の公演は観ているが、いずれも必ず失望を覚えた。この『エクウス』以外は全てミュージカルであったことも関係あるだろうが、それよりもこの"エクウス体験"があまりに大き過ぎたのかもしれない。
この芝居を見て、よーし、僕も何かしらこういう仕事に就くぞ、と決心した訳ではない。そんなことは微塵も思わなかった。にも拘わらず、この劇を見なかったならやっぱり放送局の入社試験を受けるには至らなかったような気がする。
あの後、いろんな芝居を見たりコンサートや展示会に行ったりしたのも、いろんな映画を観るようになったのも、みんなこの『エクウス』が原点であったような気がしてならない。
奇しくも上記のつぶやきの主は東京キー局に勤める(お会いしたことはないが恐らくはかなり)若い女性である。
この偶然を僕は偶然とは思えないのである。いや、逆にその偶然があったからこそ「この公演を観てなかったら放送局には就職していない」なんて思うんだろ?と言われるかもしれないが、そうではない気がするのである。
何故だか劇団四季のこの歴史的名演が僕を今で言うエンタテインメント産業へと押し出してくれたような気がしてならない。
そう、僕はジャーナリストになりたかった訳ではない。もちろん番組を売ってみたかった訳でもない。ただ何か人を感動させるものを作ってみたかったのである。
そして多分、そこへの最初の方向付けをしてくれたのがこの『エクウス(馬)』であり、それを観た時の圧倒的な感動であったのだと思う。
彼女の粒を見て、そのことに急に思い至った。
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