映画『人間失格』
【2月28日特記】 映画『人間失格』を観てきた。
客層がバラバラだ。多分生田斗真目当ての人と太宰文学のファンが混じっている。そして、どれくらいいるか分からないが、僕のように荒戸源次郎を見に来た人と。
(そんなことを考えていたら、荒戸監督がインタビューに答えて同じようなことを言っているのを発見した。監督の見立てでは、生田斗真を始め男優・女優のファンが大半、太宰ファンがその10分の1、荒戸監督を見ようという「奇特な方」はさらにその100分の1)
荒戸映画は『ゲルマニウムの夜』以来である。監督作品となると『赤目四十八瀧心中未遂』以来ということになる。
原作の小説は僕も多分高校時代に読んだ。が、何も憶えていない。ま、今から思えばあんな小説を高校時代に読んでも解るはずがない。太宰ほどの早熟であればまだしも僕では到底無理だ。にも拘わらず解ったような気になっていたんだろうなとは思うが(それが若さだ)。
去年から今年にかけて太宰生誕何年だか没後何年だか知らんが、何本もの太宰映画が制作され公開された。僕はあんまり気に入らない。そんなに凄い作家なのか、という思いもある。高校時代に何作か読んで、その後決して嵌ったりしなかったのはやっぱりあまり好きな作家ではなかったということなんだろうか?
あの自意識過剰ぶりに辟易するのである。いや、それは多分近親憎悪なのかもしれない。ただ、僕は酒も飲めないし太宰のように女にモテたりもしないので純粋な嫉妬心と言うべきなのかもしれない。
まあ、どっちにしても、ほんとにどうでも良い物語なのである。ろくでもない話なのである。だから見ていてちっとも面白くない映画なのである。ひたすらやるせなくなるのである。他にももっと映画化すべき小説はあるだろうに、などと思ってしまう。
津軽の金満家に生まれた葉蔵(生田斗真)は早熟で自意識過剰な少年。その葉蔵が上京して高等学校に入り、6つ年上の堀木(伊勢谷友介)と出会ってますます自堕落な生活に堕ちて行く。酒に溺れ、女に甘える。
女は次々に寄ってくる──下宿先の娘・礼子(坂井真紀)、カフェの女給で葉蔵と心中を図り独りで死んでしまう常子(寺島しのぶ)、子持ちの未亡人記者・静子(小池栄子)。他に肉体関係があったようには描かれていないが、バーのマダム・律子(大楠道代)の家にも転がり込んでいた。
その辺りまではせいぜい年上が好きなのかなという印象を持つくらいなのだが、モルヒネを貰うために薬剤師・寿(室井滋)に迫ったり、青森に戻って療養する葉蔵の世話係である鉄(三田佳子)と関係を持ったりする辺り、壮絶な感じさえして来る。
そしてタバコ屋の娘・良子(石原さとみ)──彼女とは唯一祝言をあげることになる。しかし、あることがあって破局を迎え、自殺にも失敗したあと青森で鉄に出会うのである。
困った話なのである──破天荒と言うべきか、無頼などと気取るべきか、逆に哀れと言うべきか、悲愴と評するべきか・・・。
そのろくでもない困った話を丁寧に丁寧に撮ってある。時々実景の代わりにCGが使われているのが気にならないでもないが、全体にとても印象的で心に触れてくる映像である。
そして役者が皆良い。特に前半は伊勢谷友介が完全に生田斗真を喰っていた感がある。唯一葉蔵と結婚するに至った良子役の石原さとみがものすごく魅力的であり説得力もある。そして、原作には出てこない中原中也に扮した森田剛が意外に良かった。さらに最後まで見て生田の良さにも気がついた。
映画にしてしまうと太宰の筆致は消えてしまう。あの小説から太宰の筆致が消えれば残るのは醜悪さのみではないか? それを知っていながら挑戦した荒戸監督に敬意を表したい。
こんなクソみたいな筋でもこんな良い映画になるのかとびっくりする。いろんな形で出てくる「赤」の使い方が非常に印象的だった。
しんどくても良いという人は是非観るべき映画だろう。
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