『数学ガール』結城浩(書評)
【2月22日特記】 数学は面白い。その面白さの理由(あるいは秘密と言ったほうが良いかもしれない)はたくさんある。
そのうちのひとつは、凡そ関係ないと思われていたものが繋がってくるからだ。例えば有名なオイラーの公式に於いては、それぞれ全く関係のない定義で習ったはずの円周率πと自然対数の底eと虚数iがひとつの等式の中に収まってしまうのである!
この本に出てくる例で言うと、フィボナッチ数列の一般項がちゃんと数式で表すことができ、しかもその数式の中にルート5(5の平方根)が3度も登場するということである。このややこしい式にn=いくつと代入しても見事に答えは整数となり、しかも前項と前々項の和になっているのである!
あるいは、例えば sin x のような単純な関数がテイラー展開することによって、まるで手品みたいに無限次の多項式に置き換えられてしまうのである!
そういう数の神秘をこの本は教えてくれる。そして、そのための言わば狂言回しとして登場するのが3人の高校生である。
まずは数学好きの少年でかなり数学が得意な僕、そして僕の同級生であり、ほとんど数学の天才と言って良いミルカさん、1学年下の女生徒で、数学は好きだけれどそれほど得意ではないテトラちゃん。
──カッコ良くて時として高圧的なものの言い方になるミルカさんと、僕に憧れてつきまとう、やや粗忽でバタバタしたテトラちゃん、というキャラの描き分けがしてあるのが楽しい。
だが、この3人はあくまでこの数学の教科書の狂言回しでしかない。例えば『博士の愛した数学』の3人の登場人物なんかを想像してはいけない。
この本における設定や展開は小川洋子のあの小説と比べるほどのものではない。問題が出されて3人がそれを解く(いや、解けない場合もあるので「解こうとする」と言うべきか)──単にその繰り返しの物語である。
ただ、下手すると眠くなるだけの数学の授業を少しく潤すために措定された狂言回しなのである。ストーリー自体が感動を呼ぶようなものではない。芥川賞作家のような筆の冴えもない。ただ、この作者としては精一杯頑張って書いている。ちゃんと余韻らしきものも残っている。
数学の面白さの秘密のもうひとつは、答えはひとつしかなくても解き方はたくさんあるということである。現にこの本の中でも同じ問題を僕とミルカさんが別々の方法で解いて見せる。
そして、この本の魅力は、数学の解法と同様に、数学の面白さを教える方法もまたたくさんあるということをこういう形で見せてくれるところである。
そういう意味で大変意欲的な数学書であると言える。僕はそういう作者にとても好意を持った。
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