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Monday, January 11, 2010

MBS新春ヒューマンドラマ特別企画『筆談ホステス』

【1月11日特記】 昨夜、MBS新春ヒューマンドラマ特別企画『筆談ホステス』を観た。良かったと思う。裏環境が厳しいので視聴率的には多くを望めないかもしれないが、これならどこに出しても恥ずかしくないのではないか。

ベストセラーのドラマ化なので大抵の人が知っているかとは思うのだが、これは耳が不自由であるというハンディキャップを負いながら、筆談一本で銀座ナンバーワンのホステスになった斉藤里恵さんの自伝である。

ホステスというのはあまり障害を持った人が選びそうな職業ではない。それをこの人は自ら選んで、自ら精進して、その結果ナンバーワンになった。そして、そのことを本人は「この仕事が初めて私を認めてくれた」と言う。

その辺りの軽やかな凄さがこの話の魅力である。そして、この脚本はその辺りのことを本当に上手く表現できていたと思う。

脚本を書いたのは加藤綾子という新進である。元女優で、秦建日子の弟子筋と言うか、彼がバックアップして育ててきた作家のようだ。

原作を読んでいないので、どのようにアレンジされたのかは定かでないが、出だしの高校時代のパートはちょっとくどいかと思われたが、全体としてはとても上手に組み立てていたと思う。

圧巻はラストの里帰りしてきた里恵(北川景子)と母(田中好子)の再会のシーン。ホステスになることを許さなかった母と喧嘩して飛び出したままになっていた里恵が、優しい兄(福士誠治)の手引きで実家に戻ってくる。

兄はすぐに「服を着替えてくる」と席を外してしまう。そして、なんとも言えず気まずい雰囲気の中、里恵は筆談を始める。里恵がメモ用紙に万年筆で書いてはビリッと切り取って母に見せる。また書いて切り取って見せる。さらに書いて切り取って見せる。

その間、母役の田中好子の台詞はひと言もない。BGM もなく、無音の中でメモを破りとる音だけが規則的に響き、カメラは静かに母と娘の表情を捉えて行く。やがて、感極まった母が娘の万年筆を奪い取るようにして書き返す。

これはものすごくスリリングな無音のシーンだった。

田中好子はなかなかの熱演だったと言える。

里恵の耳が手術しても治らないということを医者から訊いたシーンでも、手前に医者の後頭部、奥に福士・田中・梨本謙次郎(父親役)という4ショットからカメラはゆっくり田中に寄って行き、福士の長い台詞だけを聞かせて画は田中の表情に迫っていた。──そういう演出にきっちり応える名演技だった。

主演の北川景子については、僕は『間宮兄弟』『サウスバウンド』『わたし出すわ』という森田芳光監督の3本の映画で見ているが、今までそれほど印象に残る役者ではなかった。それが今回は難しい役どころを演じながら、自分の印象をきっちり残すことができたのではないだろうか。

変な言い方だが、変な顔をするところが良いと思った。

僕は途中、提供チェンジが入った後からは字幕をオンにして見ていた。見ていると、そういうことをしたくなるドラマだった。それは良い作品だというひとつの証でもあるのではないだろうか。

あんまり褒めるといろいろと異論も浴びそうだが、まあ、TVの2Hドラマとしてはこんなもんで上出来ではないのかな。僕としてはあまり好きではないジャンルのお話であったにも拘わらず、結構ウルウルしたよ。それだけで成功だと言って良いのではないかと思う。

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