映画『Dr. パルナサスの鏡』
【1月23日特記】 映画『Dr. パルナサスの鏡』を観てきた。面白かった! テリー・ギリアムが戻ってきたという感じ。
いや、別にテリー・ギリアムがどこかに行っていたというわけではない。ただ、ここのところ、『ロスト・イン・ラ・マンチャ』(これはギリアム監督ではないが)以降の彼の作品では、『ブラザーズ・グリム』にしても『ローズ・イン・タイドランド』にしても、面白いのは面白いのだが、なんか弾け方が足りないと言うか"切れ"に欠けるような気がしていたのである。
それが、時代で言うと『未来世紀ブラジル』や『バロン』や『フィッシャーキング』の頃の、やんちゃで多彩でぶっ飛んだテリーの凱旋という感じのする映画だった。それもそのはずで、『未来世紀ブラジル』と『バロン』で組んでいた脚本家チャールズ・マッケオンと21年ぶりにタッグを組んだのがこの映画だと言う。
まさにあの頃のテリー・ギリアム。松尾貴史氏をして「テリー・ギリアムの最高傑作」とまで言わしめた作品。テリー・ギリアムのファンが泣いて喜びそうなテイスト感とスピード感があり、スクリーンからイメージが横溢している。
ストーリー的には要するになんだかよく解らない映画ではある。
パルナサス博士(クリストファー・プラマー)は旅芸人一座の座長。かつて悪魔(この悪魔を演じているのがトム・ウェイツであることにエンドロールまで気づかなかったのは不覚であった)と取引して不死の体を得て1000年以上生きている。
一座は馬車に住居兼舞台のワゴンを轢かせて旅回りをしている。他には博士の娘ヴァレンティナ(リリー・コール)、曲芸師アントン(アンドリュー・ガーフィールド)、小人のパーシー(ヴァーン・トロイヤー)が一座に加わっている。
そして、この一座の出し物は"イマジナリウム"──博士の特殊な能力によって、舞台の上の鏡を通り抜けた参加者に、その人自身の願望から成る幻想の世界を見せるのである。
博士は悪魔とのかつての取引で、娘が16歳になったら悪魔に引き渡すことになっている。明後日がその誕生日である。そこへ悪魔が現れて新たな取引を提案する。そして、一座は通りかかった橋からロープを吊るして自殺しかけていた男トニーを助け、翌日からトニーも一座に加わる。
ま、ざっとそんな話である。
で、僕は全く予備知識なく見に行ったのだが、実はこのトニー役のヒース・レジャーが撮影途中で急死してしまったのだそうだ。テリー・ギリアムのファンなら誰しも The Man Who Killed Don Quixote でジャン・ロシュフォールが腰を痛めて降板したために製作中止になったことを思い出しただろうが、それよりもさらにひどい。
ところが、この映画のミソはここからで、たまたまヒース・レジャーが現実世界でのシーンを撮り終えていたということもあって、トニーは鏡を超えると容姿が別人になるという設定に書き換えられる。そして、3回鏡を超えて幻想の世界に入ったトニーをジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルという超大物が演じることになったのである。パンフによるとトム・クルーズからも代役をやりたいとの申し出があったが、テリー・ギリアムが断ったらしい。
こういうエピソードを読むと、世紀末ごろには不遇に見舞われたギリアム監督だが、ようやくツキが回ってきたような気がして、こっちまで嬉しくなってくる。
さて、今回は周辺このことばかり述べて肝心の台詞や映像についてはあまり触れていないが、まあ、見てくださいという感じである。イメージの横溢という表現がぴったりだと思う。「よくこんなこと考えたなあ、中はどうなってんの?」とテリー・ギリアムの脳天をかち割って中味を覗いてみたい気になる。
CG満載の"イマジナリウム"のシーンだけではなく、鏡のこちら側のシーンでも印象的なカットがふんだんにある。
パルナサスはファウストとドン・キホーテが合体したようなキャラクターである──これは映画評論家の黒田邦雄氏がパンフに書いていたのだが、まさに言い得て妙である。そこに更に不思議の国のアリスが加わったのが、この映画だと思ってもらえれば良い。
ああ、面白かった! 僕もこれはテリー・ギリアムの最高傑作だと思う。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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